ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

脳と身体と心に関する幾つかの記事

BBCニュースの最近の分をまとめて見ていたが、相変わらず脳と身体と心に関わる記事が相次いでいる。何れも興味深い。

Drugs may boost your brain power http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/6558871.stm

ここで取上げられているModafinilという薬のことは全く知らなかったが、記事を見ると副作用のない、もしくは問題になっていない、一種の覚せい剤といったところだろうか。専門的な定義で覚せい剤にはあたらないようだけれども、眠気を防ぎ、脳活動を活発にさせるという意味では文字通りの意味で覚醒剤といえる。記事では「new class of cognition enhancing drugs」とされている。これがアメリカなどで健康な人の間での使用が広がっているとのことで、英国政府も調査に乗りだしそうだとのことである。早速インターネットでモダフィニルを検索して見ると、日本でもかなりのヒットするページがあって、すでによく知られていることがわかった。

抗うつ剤とも書かれているページもあったが、多少は専門的と思えるサイトで調べてみると、「抗うつ剤」ではこれは出てこない。正式な分類ではナルコレプシー(慢性睡眠障害)治療剤となるようだ。しかし抗うつ剤として使用されてもおかしくないように思える。この記事の見出しでは"may boost your brain power"となっている。ともかく薬の分類等に関しては素人に解るわけもないが、その効果などを見ると興味を持たないわけには行かない。

人工の物質だから、どうしても問題にならざるを得ないが、カフェインなどと比べてどうなのだろうか、とも思う。また日本ではドリンク剤が盛んに用いられているけれども、カフェインやビタミン類が不自然なくらい多量に含まれていて、実際にドーピング剤のような効果が宣伝されている。食事の内容や取り方によっても頭の働きに影響を及ぼすこともなくはないとも思える。

英国では「Academy of Medical Sciences expert group」がワークショップを開いて 一般人の意見を聞いているとのことだけれども、公聴会のようなものだろうか。日本で政府や自治体ではなく、学者や学会が一般の意見を聞いたり取り入れたりすることはあるのだろうか。とにかく、確かにこういう問題は学者、専門家の意見だけで決める種類の問題ではないように思われる。日本でももっと広く議論が巻き起こっても良いのではないだろうか。

アメリカでは既に普通に使用されているとの事だから、産業上の、或いは教育文化上の生産性の向上に繋がっているという可能性も考えられないことではないとも思える。もちろん生産性の問題になってしまうような事は問題ではあるけれども。


How stress can strain the heart http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/6540449.stm

これは心臓の脈拍異常が精神活動に関わる部分である大脳と影響し合い、精神的ストレスが心臓に直接悪影響を及ぼす可能性があることがわかったということのようだ。実際の応用としては心臓がストレスの影響を受け易い人を特定できる技術として応用できるということである。

精神的ストレスやショックが心臓の脈拍に悪影響を与えるというのは常識的に考えてありそうなことである。しかしこの研究による発見まで、科学的には必ずしもそうではなかったらしい。

高度の精神的な働きと関連のある大脳との影響関係があるとはいっても、もちろん、心臓の動きを意思的に左右できるというわけではなく、精神的なストレスが影響するということなのだから、精神的なストレスとは何なのかという問題に改めて直面することになる。これはいわゆる身心相関の問題で、容易に議論できる問題ではないのだろう。

ヨガの行者で心臓の脈拍をある程度意識的にコントロールできる人がいて、実際にそれを検証した研究の話を聞いたことがある。そういう研究とも繋がってゆけば面白いと思えるが。


Grey power: Battle of the brains http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/6563195.stm

知能テストが発明されて100年以上たった現在、再検討するべき時期にきているとするハーバードの教授の考えにもとづいて、BBCホライズンというビデオ番組が科学者やアーチストなど著名な7人に異なったタイプの何種類かの知能テストを実施した結果を紹介している。創造性とか、遊び心とか、身体的知性とか、エモーショナルな知性とか、色々な知性が議論されている。こういう問題提起は特に新しい事とも思えないけれども、同時に、考え出すと際限がない問題でもある。

この記事が他の記事と異なっている一つの特長は、この研究は純粋に心理学的な研究であって「脳」という臓器に関する言及がないことである。というのも、これは知能の定義、すなわち意味に関わる問題であって、意味の領域には今のところ、脳という臓器の生理的な研究が関わることはないということであろう。