新型インフルエンザの致死率とパンデミック予想
18日には日本の各紙がそろって、新型のインフルエンザ「致死率は米加で0.5%」という研究のニュースを報道している。オランダ・ユトレヒト大学の西浦博研究員(理論疫学)の研究で、米科学誌で発表される前の公開である。NYタイムズとBBCニュースではこのニュースは報道されていない。これに関係してNYタイムズとBBCニュースにそれぞれ興味深い記事が掲載されている。何れも専門のオーソリティーではあるが、特定の個人的見解を述べた記事である。
Seeking Lessons in Swine Flu Fight
この記事で Dr. Richard P. Wenzel, chairman of the department of internal medicine at Virginia Commonwealth University が述べているところによれば、致死率を算定するには分からないことが多すぎるようだ。このDr. Richard P. Wenzelは、このブログ6月11日に取り上げた5月12日のNYタイムズ記事で、メキシコや南米を訪れて実際に調査した結果を公表している人である。
色々重要な問題が指摘されているが、ともかく重傷でも熱の出ないケースが多いことが、特に患者数を正確に把握することを難しくしているようである。熱のない患者からどれだけウィルスがばらまかれたかという問題は今後検査される予定のサンプルが手がかりになるかも知れないとしている。
今のところ、患者が何時になってからウィルスをばらまかないようになるかについては殆ど分かっていないそうだ。
また、下痢症状が多いことから、伝染の仕方を調査する意味でも検便の必要性を説いている。インフルエンザで検便をするというのは個人的には余り他では聞いたことがないように記憶している。
またメキシコの医師達は病院の職員の手、患者のベッド脇の机の上、コンピュータのマウスなど硬い表面でウィルスを発見しているので院内感染が特に重要だと言っている。
BBCニュースではやはり、次のような記事がある。
Pandemics - what history tells us
これは記者ではなく、ウィルス学者のDr Mike Leahy という人の書いた記事である。
この博士はパンデミックの予想というのは現在の天気予報と同じで、数日先のことまでは予想できるが、それ以後については殆ど当てになる予想は不可能だと言明している。
過去の例からも、パンデミックというのは個々のケースで全く性質が異なり、過去のパンデミックは参考にならないそうである。
同じH1N1ウィルスでも1918年の流行時には何千万もの犠牲者がでたのに、それに似たウィルスが1976年に出現したときには米国でパニックになったが、1人の犠牲者が出ただけだったという。
イギリスのメディアでも今回のパンデミック予想に関しては意見が極端に分かれ、広範囲にワクチンを接種することをばかげていると言う専門家もいるようである。
最後に博士は次のように言っている。「I hope that in a few years I can take part in an updated pandemics guide and look at exactly what happened with this pandemic.」。