ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

海洋の「スキン」と生物による海水の攪拌

海洋学の話題でニューヨークタイムズに2件、その内1件はBBCニュースにも報道されている。ひとつは海洋の攪拌にかかわり、他方は海洋と大気との反応に関わる最近の研究で、何れも生物が関わっている。
(09/07/27) Scientists Find a Microbe Haven at Ocean’s Surface (N)
(海面マイクロレイヤー)
(09/07/31) Microscopic Creatures Stir the Oceans (N)
(09/07/30) Jellyfish help to stir the ocean (B)

(以上、微小動物による海水の攪拌)


何れの記事も温暖化問題と関わりで特にCO2との関わりで興味が持たれる問題であることはそれぞれの記事内容でも言及されているとおりである。

という事で温暖化問題から話題に入ることになるが、CO2地球温暖化説では事実上、少なくとも多くの人目につく場所では、大気中CO2による温室効果のみを取り上げて大気の温度や温暖化の問題を説明している。温暖化問題イコールCO2排出問題といった具合である。そして多少立ち入った説明が必要になると「CO2シンク」という用語が持ち出される。海洋や森林などの植物を「流し」に喩えたもので、「温室効果」と同様に一種の専門用語になっているのだろうが当然、もともとは比喩である。

ゲーテが、比喩というのはその場限りの表現として使うものであって、科学の用語として固定され一人歩きするようになるとろくなことが無い、と言う意味のことを書いていたように記憶している。もちろん、そうはいっても意味を限定した専門用語を作ることなしに科学は成り立たないだろうし、新しい用語を作るにはどうしても比喩を用いざるを得ないという事はある。いわば必要悪かも知れないが、それにしても本当に必要な用語ばかりが作られているかということを反省することも必要ではないかと思うのである。

その意味でCO2シンクという言葉も1つの重要なコンセプトになってしまっているが、なんだかことさらCO2を主役として強調したうえで、対象を固定的で図式的、一面的にのみ捉える傾向が有るように思え、自然を平板に見てしまうような印象もあり、個人的にはあまり印象のよくない言葉である。例えば海洋の場合、CO2シンクとして以外の働きに目が向かなくなる。思い起こせば海洋が季候に大きな影響を与えていることは、海風や海岸性気候などの身近な例から台風の発生や、エルニーニョなどに至るまで、誰もが納得できるはずのものであるが、CO2シンクという用語を聴かされるとCO2との関わり以外での海洋と季候との関わりが忘れられてしまいそうである。またシンクといえば一方向的な捨て場所のような印象を持たれてしまう。そしてその実体、メカニズムに触れられないままであるから、何時の日かシンクが満杯になってしまうのでは無いだろうかという、一抹の不安がかき立てられる。

地球温暖化の太陽活動主要原因説では、もちろん論者によって異なるであろうが、例えばいつも引用している「世紀末の気象」では「シンク」ではなく「貯蔵庫」という比喩が使われている。こちらの方が比喩としても断然優れているような気がするのである。というのは海洋の場合、海洋という貯蔵庫と大気との両者を含めたシステムとして全体を理論的に構成するような意欲が、その命名からして感じられるのである。シンクというのは余りにも無責任な表現ではないか。シンクの内部をブラックボックスのまま、ただ表面に現れたデータだけを測定しているという印象である。実際、CO2シンクという用語が用いられる場合、CO2が吸収される理由やメカニズムについて言及されることは少なく、ただ排出CO2と測定されたCO2データとの差から吸収量を出し、過去のデータから統計的に推論するだけという傾向が感じられる。そういったコンセプトがそのままシンクという安直な比喩に表現されているとも言える。

表記の2件の科学ニュースはその「CO2シンク」あるいは「貯蔵庫」とされている海洋に関するもので、両者とも、記事中でもCO2の吸収との関係に言及されている。記事では触れられることがないが、どちらかというとCO2温暖化説よりも太陽活動主因説に有利に働く研究あるいは発見であると思う。というのも、何れもCO2の吸収あるいは大気との反応に関してその進行速度が速い、あるいは活発であることを実証するような内容だからである。

地球化学の基礎的な教科書にも書かれている基本的な事実として、「大気は1平方センチあたり0.4グラムのCO2を含むのに対し、海水は20グラムを含んでいる。」大気中CO2とその50倍程度の海水中CO2とが平衡関係にあるが、温度が変化する海洋表層部と大気中におけるCO2の比率が温度によって変化するので、大気中のCO2も変化する。総合的には、大気中CO2の変化は人為的CO2の排出よりも遙かに気温と海水の温度変化そのものに依存しており、温暖化あるいは寒冷化の原因であるよりもむしろ寒冷化、温暖化の結果であるというのが太陽活動主因説による大気中CO2とその貯蔵庫としての海洋に対する見方である。とすれば当然、反応の早さ、メカニズムの進行速度の速さという要素が重要になってくるからである。

最初の記事は最近になって研究され始めた「so-called sea-surface microlayer」と言うものについての紹介であって非常に興味深く面白い記事である。

この記事によると、海洋の表面が油のような膜で覆われていることがあることは古くから船乗りには知られていた。しかし20世紀の中頃になって科学者がそれを調査し始めたとき、それが容易でないことに気がついた。というのはその表層というのは百分の一インチ程度であって、波打っている海水のその部分だけ採取することは不可能だったからである。それが最近になってUniversity of East Anglia in EnglandのDr. Liss and his colleaguesが、液体窒素で冷やしたガラス板を海面に降ろし、接触面に海の表層を凍り付かせることによってサンプル採取に成功した。そういった研究の成果が報告されている。一言でいうとその百分の一インチ程度の表層は炭水化物のゼラチンのような、かなり安定した膜であって、その下部とは異なった、独立した生態系になっているという事である。そして、「Dr. Cunliffe and his colleagues have identified bacteria in the microlayer that devour important chemicals like methane and carbon monoxide.」。生物が関わっていて直接海水に吸収されるという訳ではないようだが、「“It’s actually sucking the carbon dioxide down into the water column,” Dr. Cunliffe said.」。

もう一つの記事はNYタイムズBBCニュースの両方で取り上げられている。同じソースによる記事だが少しニュアンスが異なっている。NYタイムズではMicroscopic Creatures となっているところがBBCニュースでは表題のようにクラゲにスポットが当てられ、「jellyfish, which were between one and 10cm in diameter, 」というように顕微鏡的サイズとは言えない。これはクラゲを用いて行われた実験が動画で紹介されているためであって、記事の内容を読めば両者にそれほど違いは無いのだが、見出しだけを見ると別の記事のような印象を受ける。

要点をBBCニュースの記事から引用すれば「The wind and tides play a big part in mixing the oceans, but this study suggests that the role of biogenic mixing could be more significant than previously thought.」となる。特に微小動物はクラゲのように流線型ではなく、また水の粘性の効果が効いてくるので攪拌への寄与が大きいということであるらしい。

生物による海水の攪拌が従来考えられていたよりも重要である、すなわち大きく攪拌に寄与しているということは、当然、記事にはそう書かれていないが、海水の攪拌が全体として従来考えていたよりも効果的に速く行われていたと考えて差し支え無いだろうと思われる。なぜならその分だけ風と潮流の効果が差し引かれるわけではないからである。

温暖化における太陽活動主因説のあらましを知っていれば、こういった海洋研究の新しい成果はその正しさをさらに補強する新しい証拠となる筈のものだが、何れの記事も、いまのところ、「CO2シンク」というコンセプトでの取り上げ方に終始しているのはやはり、残念な気がする。