ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

地震の理論に関する注目すべきと思われる研究のニュース

最近、11月4日付けのBBC科学ニュースで、Nature誌に発表された地震の新理論に関する研究が紹介されている。
Major quakes could be aftershocks
これは、少なくとも個人的に、非常に注目すべき研究のように思われる。ただし、アメリカの University of Missouriの Professor SteinとMian Liu による研究で、基本的に日本とは異なる大陸内陸部の地震についての調査にもとづいた研究である。

一言で言うと、大陸内陸部で発生した巨大地震の余震は何百年もつづく場合がある、というものである。カナダのSaint Lawrence valleyで起きた17世紀の巨大地震の余震が未だ今日発生しているという事、そして最近の巨大地震である中国四川地震が前触れの小地震などが無く突然派生していることがそれに関連づけられて説明されている。

プレート境界付近、アメリカで言えばサンアンドレアス断層付近などでは常にプレートの動きの影響を受けているのに対し、大陸内陸部ではそういうエネルギーの蓄積がないところでも小地震が発生している。そういう地震の原因は過去の巨大地震の余震としか考えられない。次の巨大地震はそれ以外の別の場所にエネルギーが蓄積されて起きるものだということのようだ。過去何世紀もの間、巨大地震がなかった地域に発生した中国四川地震の場合もこの考え方で説明できると言っている。

記事の中でProfessor Stein は次のように語っている。「以前に起きた多くの小さな地震にもとづいて将来の巨大地震を予測するのはモグラたたきで同じ穴を見張っているようなものだ。」「次の巨大地震は別のところで起きる。」

プレートの境界に近い日本とは異なった大陸内陸部の地震に関わるものであるけれども、何に関してであれ、異なったタイプの対象との対比でこそ明らかになる真実も多いのだから、日本の地震を考える上でも注目すべき研究ではないだろうかと思われる。

この記事を読んで直ぐに気がついたことのひとつは、断層、特に活断層という言葉があまり使われていない事である。たとえば次のような文脈で断層という言葉を使っている。"If you look at where they are - they're on the fault plane of the big earthquake." 「それら(小地震)が何処で生じているかを見てみると、それは巨大地震による断層の上であることがわかる。」ここで教授は断層を過去の巨大地震による結果と見ていて、原因と見るような見方はあまりしていないことがわかる。

きわめて日常的な頭で常識的に考えても、断層というのは断層が無いところに生じたからこそ断層になっているのであって、原因と見るよりは結果と見る方が自然である。ところが、日本で地震がある度に報道されるのは往々にしてどの活断層が動いたとか、どの活断層の「活動」によるものだとか、活断層を主語にした説明だけであって、断層の名前を言えばそれで済むような、要するに擬人的な表現に終わっているのであり、少なくともこの種の表現に関する限り物理的なメカニズムについては何も語っていないのである。

この記事中の研究者のコメントでは、主語として主に使われている言葉は「断層」でも「活断層」でもなく主として「エネルギー」と「Earth」である。そして、科学者のすべきことは単に小地震が発生する場所に注視することよりも、衛星GPSやコンピュータモデルなどを駆使して地球がエネルギーを蓄えている所を見つけることである、と言っている。コンピュータモデルといえばCO2温暖化論の正当化の目的で大々的に使われており、個人的にはあまり良い印象を持たないが、あくまで1つの道具であり、要は使い方次第である。日本には地球シュミレータという凄いものがあるが、あまり地震の研究に用いられているという話は聞かない。もちろんそういう研究は当然なされているだろうと思うし、ただ困難であるだけだろう。しかし引用したProfessor Stein の発言も批判的なニュアンスであって、日本だけでなく世界的に、地震研究にそういう傾向が見られるからこその発言でもあるのだろうと思われる。

日本の地震の場合はもちろん、たとえ内陸型と呼ばれる地震であってもこの研究の対象である大陸内陸部のケースがそのまま適用されるわけでは無いだろうが、それでも断層というもの、断層の概念については基本的に同じであるべきだろう。地震を起こす主体はあくまで「地球」であり、蓄積された「エネルギー」であって、「断層」という二次元の平面では無いはずである。