ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

前回に加えて地震関連研究のニュース

前回に取り上げた地震研究のニュースより少し以前に、やはり地震関連の興味深いニュースが3件ほどあったので、メモしておきたい。近い方から挙げると。

毎日新聞サイトの記事。(09/10/22) 蛇紋岩:沖縄の大地震抑制 ひずみのクッションに (m)
ネイチャー誌に発表された広島大などの研究チームの調査によるもので、記事によると、プレート境界付近に蛇紋岩が生成している場合があり、そのような場所では蛇紋岩がクッションになって巨大地震の発生が抑制されている可能性があるとのこと。研究の対象となり、蛇紋岩があるとされたのは沖縄諸島付近で、蛇紋岩が生成するのはプレート境界の温度が高いためであるそうだ。6月19日の記事で取り上げたスロー地震に関する調査研究と同様、巨大地震を抑制するメカニズムとして興味深い。どちらも、地震対策に直接応用できるわけも無いが、それでも地震についての認識として専門家でなくとも興味を持てる内容だと思う。同じプレートの境界といっても、地震に関わる問題についてだけでも多くの個性、特殊性があるという事だろう。

次の記事は10月1日BBCニュースの記事。こちらの方はスマトラ沖地震に関わるもので、特に新しい発見とか理論というものではなく、専門家による、この地域で近いうちに起こりうる地震の予測である。
[Padang lives with quake stress:title=Padang lives with quake stress]
これは2004年にインド洋大津波をもたらしたM9.3のスマトラ沖地震が発生したが、翌2005年には震源となったプレート境界の直ぐ南東の続きで、M8.7の地震が発生し、さらにその延長方向で2007年にM8.4、M7.9、M7.1の地震が相次いで発生している。ただ、前回動いたプレート境界部分に連続した箇所ではなく、300kmほどの空白を残しているので、この空白部分に近々巨大地震が起きる可能性が高いと言われていた。そして今年の9月30日に7.6の地震が発生したが、この地震でエネルギーが解放されたわけではなさそうで、これからM8.5の地震が発生する可能性が大きいようなことが言われている。

改めて日本のサイトを検索してみると、東京大学地質研究所のサイトhttp://www.eri.u-tokyo.ac.jp/topics/200909_Sumatra/に似たような記事があった。但しこちらの方はより専門家向けであまり推測などはなく簡潔に淡淡と書かれている感じである。またここでは2004年の地震があって以来、日本とインドネシアとの協同研究が行われていることなども紹介されていた。どちらかというと防災方面の研究のようだ。BBCニュースの記事は記者による取材記事で、Professor John McCloskey というイギリスの大学教授に取材していて、その教授は、"We know a lot about earthquakes in this area," と言っている。こうしてみると、イギリスの学者もそうだが、BBCニュース科学記事の取扱い範囲の広範さが改めてよくわかる。この地域のケースは中国の四川地震などに比べて明らかに日本の東海地震や南海地震などのケースに近い部分が多いように思われるものであるだけに、日本の新聞サイトでこういう詳しい記事が見られなかったのは残念だと思う。

3つ目はやはりBBCニュースの9月30日の記事で、2004年のM9.3スマトラ沖地震が8,000kmはなれたアメリカのサンアンドレアス断層に影響を及ぼしていたというもの。8,000kmと数字を言わずとも、スマトラ島と北米というだけで如何に離れた地域であるかということは自明である。
Earthquakes weaken distant faults
この記事には、見出しにもあるように、「遠い断層を弱くした」という表現がある。断層を弱くしたということは断層の強度を弱くしたという事なのだろう。この記事では次のように説明されている。"That is a signal of the fault weakening; you only have to push a little bit and the fault fails." より弱い力で断層を動かせるようになったと言う事のようだ。この調査の責任者はTaka'aki Taira, of the University of California at Berkeleyと紹介されていて、名前から日本人か日系人であることがわかる。

この「たいら」博士が中心となってサンアンドレアス断層のParkfield近くの1セクションを調査したそうで、そこは「earthquake capital of the world」と呼ばれている、と書かれている。この地域に地下数キロメートルの深さの場所を含め、精密な地震計のネットワークを設置して調査した結果、M9.3のスマトラ沖地震以後、それ以前に比べてより弱い地震がより高い頻度で発生するようになった。すなわち断層が弱くなったと言う事のようである。それ以上の具体的な影響については書かれていないが、ともかくかくも遠方の大地震によって断層の強度が影響を受けると言う事自体、重要な意味を持つことは当然だろう。

この記事の日付である9月30日はちょうど最近のスマトラ沖地震が起きた当日でもあり、記事の最後にそれがM7.6と計測されたことが記されていた。