ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

直感と論理、宗教と教育。

毎日新聞の「理系白書’07」シリーズに関してこれまで何回か取上げてきたが、このシリーズ今回は第一部の最終回ということで、メンバー3人による座談会形式で終わっていた。毎回異なった専門科学者或いは識者とでも言うべき人物が登場して意見を述べ、今回の座談会という形で終わったが、結局何人かの科学者、或いはジャーナリストの多少ニュアンスの異なった意見を紹介するという程度で終わったように見える。

このシリーズ各回を通じ、各氏が共通して焦点を当てて批判していた対象が「水からの伝言」に関するものだった。端的に言ってこれに対する各氏の批判の論拠は直感と常識によるものとしか言えないだろう。「古田 論理的な考え方ができない人が一定以上いることの結果の一つが、ニセ科学の広がりではないか。」(記事から引用)というような意見が出ているが、具体的な否定の根拠としては、「物の性質については非常によく分かっている。水が言葉の影響を受けるという話は、これまでの蓄積から「間違い」と言い切っていい」(記事から引用)といった常識と直感による大雑把な言い方であり、こういう言い方そのものは論理的とは言えない。問題が大きくなるが、これは科学と無神論、有神論という問題と同根ともいえる。

こういう問題が集約される場というのは結局のところビジネスと教育に関わる部分と思われる。どちらの場合も捏造が一つのポイントになるが、こちらは特にビジネスに関わる場合が多い。一方、教育に関わる部分では、問題は結局のところ宗教問題に帰着する。今の憲法では信教の自由は保障されているが、宗教は実際、無数にあるともいえるのだから、教育の場ではこれが特に難しい問題となる。現行では政教分離の原則が根拠となるのだろうか、公立学校では宗教教育が行われてはならないが私立学校では宗教教育は自由ということらしい。いずれにしろ、「ニセ科学」というような論議よりも、この様な文脈で論議した方が良い問題のようにも思われる。

教育との関連ではBBCニュースに補完代替医学に関する論争が紹介されている。
"Alternative therapy degree attack "
http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/6476289.stm
ここでの論議の中心はDavid Colquhoun という教授の主張で、東洋医学アロマセラピーなどのAlternative therapyを大学で教え、科学の学位を与えることを"anti-science"という言葉を使って批判している。それに対する反論としては、そういう考えは"sweeping generalisation"であるという見方に集約されるようである。ただここでの教授の議論はサイエンスの学位を与えるということに限って論議されている。

調べてみると英語圏では他に"non-science"という言い方や"proto-science"などの用語があり、ネットで検索してみると随分論議されているようである。このブログへのコメントでウィキペディア日本語版での「プロトサイエンス」の項目があることを教えていただいた。"non-science"という言葉もネットで検索してみると897,000件もヒットする。こちらの場合「ノンサイエンス」では4件しかヒットしなかった。こういう現状を見ても、「ニセ科学」や「疑似科学」といったカテゴリーを前面に立て、それを前提に大雑把な批判を行うことは英語で言う"sweeping"に相当するものだろうという感がいよいよ強くなる。批判は個々のケースで具体的に行うしかない。「ニセ科学」といった表現は、具体的な批判を行った後、多少感情的な文脈で用いるべき種類の言葉である。

この種の問題は自然科学と人文科学との関係にも広がる問題となりそうだが、現実にそのような問題に関わる科学ニュースが増えてきているようだ。
Scientist Finds the Beginnings of Morality in Primate Behavior (NYタイムズ
http://www.nytimes.com/2007/03/20/science/20moral.html?ref=science
この記事は長文でまだ読んでいないけれども、動物学者がモラルの問題を扱うようになったということで、動物学者の哲学者との論争を含んでいる。