社会心理学者の「悪」の研究:ルシファー効果
Finding Hope in Knowing the Universal Capacity for Evil
http://www.nytimes.com/2007/04/03/science/03conv.html?ref=science
ニューヨークタイムズ科学欄に良く出る科学者へのインタビュー記事
最近“The Lucifer Effect: Understanding How Good People Turn Evil” (Random House)という本を出した社会心理学者で、もと米国心理学協会会長のDr. Zimbardoへのインタビューで、博士の研究と見解とを紹介している。結論自体はそれほど目新しいという印象はないが、相当過酷な実験を行ったことで、やはり説得力をもっている。実験というのは1971年に大学で行ったもので、ボランティアの男子学生達を二つのグループに分け、スタンフォード大学内の模擬刑務所内で囚人と看守の役割を担わせた。社会心理学のテキストではS.P.E.として知られているとのこと。結果的にこの実験は匿名性と服従制、そして退屈とが本来健全な学生たちにサディスティックな行動を誘発することを示したとしている。実験は相当ひどい結果になり、助手の女性の訴えで中途で打ち切られた。最近はイラクの米軍刑務所で起きた拷問事件を研究し、スタンフォードでの実験からイラクの刑務所への道が今度の著書で書かれているという。
述べられているような考察は実験をするまでもなく、現実の事件の観察から引き出されるように思えるし、戦場という状況が残虐事件を誘発することは繰り返し主張されてきたことでもある。しかし、それでも健全な学生たちによる実験というのは、やはりそれなりの説得力をもつことは否めない。これが科学の持つ一面であるともいえる。ただ、ボランティアによる実験とはいっても、こういう実験にボランティアとして応じる学生が完全に平均的に健全な学生とは断言できないのではないかとも思える。特別に好奇心が強いということもあったかも知れず、或いは失礼だけれども、すでに退屈していたのかもしれない。もちろん学問的探究心の強さもあったには違いない。この実験の解釈として匿名性と服従制、そして退屈とがサディスティックな行動を誘発すると説明されているが、博士は特に「退屈」を強調しているのが印象的だ。
外的環境に対しての内的環境として挙げられているのが遺伝子と道徳的伝統と宗教的訓練の三つであるが、これは割と常識的で無難な説明のように思われた。こういう風に列挙されると成る程と思えるが、しかし何れも突き詰めて考えれば簡単に片付く問題ではないだろう。この研究の中心はやはり外的環境の分析にありそうである。最近問題になったいじめの問題に関しても参考になる部分があるかもしれない。