薬品製造向け遺伝子操作作物 ―― リスクと安全性に関する「科学的根拠」
4月4日のBBCニュースの記事 "Firm in GM insulin breakthrough" http://news.bbc.co.uk/2/hi/health/6518787.stm
と4月9日のニューヨークタイムズの記事 "How to Confine the Plants of the Future?"
http://www.nytimes.com/2007/04/08/business/yourmoney/08frame.html?ref=science
共に薬品向け遺伝子操作農作物の問題を取上げている。
人間の遺伝子を植物、それも農作物に組み込んでインシュリンなどを農業的に生産する動きが急速に進んできていることで危険性を指摘する声が高まってきているとのことである。今のところ日本のニュースではこれに関する報道はあまりみられない。
ニューヨークタイムズの記事では安全性に関する「科学的根拠」を主張する企業と、疑いを持つ市民と、その間で調整する政府の三者の関係に焦点を当てて問題点を指摘しており、後半ではバイオ技術農業に対してフェアで信頼できる見解を持つ批判的な学者として紹介されている、University of California, Riverside,and director of its Biotechnology Impacts Center の Norman C. Ellstrand 教授の見解を紹介している。教授はこういうものは温室のような隔離された環境で栽培することと、食物以外の作物でのみ実施すべきだと主張している。(教授の説明以後の文章は教授の意見か、記事の筆者の意見なのか判然としないところがあるが、)また、興味深いことは「科学的根拠」という言葉に触れ、「この言葉の意味するものは光の速度のような定数値ではないのだ」という説明をして次のように述べる「“evidence” is often just a small circle of light surrounded by the darkness of the unknown」。これは面白い表現で、ある宇宙科学者が物質と暗黒物質との関係について述べていた表現と似ている。
科学、科学的、科学的根拠といった表現は実に色々なシチュエーションで用いられる言葉であるけれども、本当に理解と解釈が難しい言葉である。私は先のニセ科学論議の記事でも、科学そのものの定義・解釈が容易でないのに「ニセ科学」というようなカテゴリーを立てて一般論を展開すること反対意見を述べたけれども、こういった事例をみても科学、科学的根拠、といった言葉を安直に振り回す論議に対して不安感が増してくる。
医薬品向けの遺伝子操作農作物の問題に関してはEllstrand 教授の見解を含めて、絶対に批判派の見解が正しいように思われる。