脳の対称性、非対称性と行動の対象性、非対称性―犬の尻尾
脳の対称性或いは非対称性とは何だろうか。
対称性という言葉は非常に抽象的な言葉だから、様々な意味で使われる。脳機能で使われる対称性にはどのような意味があるのであろうか。とはいっても脳あるいは脳機能の対称性、非対称性という言葉はウェブで検索してみたところ、特に重要な概念として確立しているわけでもないようだ。ただ、右脳と左脳との関連に関する概念はすでに日常的な概念として話題になるようになって久しい。
ニューヨークタイムズの記事
(07/04/25)If You Want to Know if Spot Loves You So, It’s in His Tail http://www.nytimes.com/2007/04/24/science/24wag.html?ref=science
この記事では始めに、犬の尻尾の振り方向が犬のボディーランゲージとしての意味を持つことを発見したイタリアでの研究が紹介され、後半ではそれが脳の非対称性との関連で論議されている。
イタリアのTrieste大学とBari大学での研究グループによって発見されCurrent Biology 3月号に掲載されたこの研究は犬が飼い主等の好ましい対象を認識した時に尻尾を右に振り、反感を持つ対象のときには左に振るが、その振りの角度はまさに好感の度合い、反感の度合いに比例することまでが明らかにされているようである。記事ではこの結果を他の動物や人間にとっての左右の持つ意味とが共通することに一般化し、それを右脳と左脳との関係で、何人かの専門家のコメントによって論じられている。
犬が体の中央にある尻尾を右に振るか左に振るかに関わる心理の問題がそれ自身で、それだけのことで右脳と左脳との非対称性の問題に直接論理的に結びつくとは思えない。もちろん何となく関連がありそうだということは分かるのであるが。
これまでの研究の成果として鳥や魚類やカエルまでを含め、左脳が前進的で肯定的、右脳が後退的で否定的な意味を持つ行動をコントロールすることが分かっており、それが身体の左右の器官の動作に対応しているとされ、今回の犬の尻尾の実験は身体の中央にある尻尾がこの点でどういう動作を行うかを見極める実験だったというのである。
左脳と右脳との非対称性は、左脳における言語能力の発達と関係がある人間だけの特徴だとする考え方との対比がさらに論議される。
個人的な印象では言語能力に関わる左脳の問題と、身体の左右の器官と対応する右脳、左脳との問題は別個の問題と思える。また脳の機能のすべてが身体の運動と繋がっているのかどうかも良くわからない。
ともかく難しく、同時に興味深い問題で、今後重要な論議に発展しそうな問題のように思える。
犬のボディーランゲージとしての尻尾動作の意味はそれ自体として面白いし、役にも立ちそうである。