ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

絶滅危惧種の保存,記録;ヤマネコとは何か?

新発見に関わる内容というコンセプトは、もともとそれほど厳密に考えているわけではないにしても、やはり取捨選択に迷うことが多い。
msn毎日(07/05/09)の記事:ツシマヤマネコ対馬南部下島で、23年ぶりに確認
http://www.mainichi-msn.co.jp/science/env/news/20070509ddm001040002000c.html
この記事を見たとき、ウェブサイトのリストに加えるべきかどうか迷ったが、見出しに「発見」ではなく「確認」という言葉が使われていたのに注目して、その日はリストに加えなかった。翌日偶然、毎日新聞の一面を見る機会があり、ウェブサイトには無かったツシマヤマネコの写真が中央に掲載されているのを一目見て、リストに加えようと思った。やはり映像が人の心を捉える力には大きなものがある。ニュースサイトの科学欄を比較すると、BBCニュースもニューヨークタイムズの科学ニュースも、この種の記事では必ず印象的な写真をトップに掲載しているのに対し、国内の3サイトではまだ写真掲載の頻度が少ないのが物足りない。

絶滅危惧種の保護や記録に関して常に思うことは、人々、あるいは専門家の持つ、この様な保護への意欲、責任感というものは何に由来するのだろうか、またどういう目的から来るのだろうかということである。色んな理由付けが出来そうだけれども、結局のところ、そういう保護、保存、記録への志向というものは科学というものの持つ本質に根ざすものなのだろうと思う。大体記述科学というものに関して言えば、名前そのものが記述であり、収集、整理、命名、分類するということ自体、記述される対象に無くなられては困るわけである。過去には剥製などにして集めることも科学者以外にも広く行われてきたが、それが進化して、自然のままで保存、保護されるべきという思想になってきたのだろう。その一因としては映像や通信技術の発達によって、多くの人が自然の状態で様々な生物を見ることが出来るようになったことが大きいと思われる。もちろんインターネットの力にはやはり目覚しいものがある。

BBCニュースの9日の記事に次のようなものがあった。
Scientists compile 'book of life'
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/6638017.stm

これは現在知られている180万種の動植物の映像、音声を含むネットアーカイブを作成する”The Encyclopedia of Life project” というプロジェクトの構想である。具体的にどのように利用できるようになるのかは書かれておらず、またプロジェクトを主宰する組織のことも書かれていないのが気になるが、ともかくこの様な構想が進行中であり、おそらくは誰でも利用できるようになるのであろう。こういうものが誰でも利用できるようになれば本当にそれは科学上の一つの革命といえるのだと思う。ただ、最近図書館の膨大な書物のネットアーカイブの制作がグーグルのような民間企業が行っていることを問題視する議論もある。また当然こういう資料は英語で作成されのであるから、ここでも英語の重要性が更に増してくることになる。しかし動植物の名前は各国の文化と歴史に密接に結びついている。一方でどの国も外来生物の蔓延に手を焼いているようなこともある。色々と問題も出てきそうである。

ツシマヤマネコの記事にもどると、大体ヤマネコという存在にはニュースでイリオモテヤマネコなどの話題に接するまで、一般にそうだと思うが、私の場合も殆ど縁が無かったといえる。宮沢賢治の「注文の多い料理店」にはヤマネコが出てくるけれど、民俗的にどういう存在だったのだろうか。それでウィキペディアで調べてみたところ、日本本土にはもともとヤマネコという存在は生息しておらず、飼い猫が野生化したノネコと呼ばれる存在があるそうで、そうだとすれば注文の多い料理店のヤマネコはノネコということになる。しかし世界的に見ればイエネコの起源はヤマネコの亜種だそうである。ツシマヤマネコは中国、モンゴル、朝鮮半島に生息するヤマネコで日本では対馬だけに生息するということらしい。今回の毎日の記事には「ツシマヤマネコ対馬にだけ分布し」と書かれている。日本では対馬だけということで問題は無いのかもしれないが、やはり「対馬にだけ分布し」というのは不適当ではないだろうか。ウィキペディアによると広義と狭義のツシマヤマネコを区別し、対馬だけに生息する存在を変種としての狭義のツシマヤマネコとしている。鳥のトキの場合における中国のトキと日本のトキと同程度の違いということだろうか。それにしても、大陸に分布するヤマネコが対馬にもいるのは納得できるが、本当に対馬にだけに生息するこの様な種類がいるとすれば、対馬の地理、地史からはかなり不自然である。最もイリオモテヤマネコの場合は本当にイリオモテ島だけの種類のようだけれどもこれは地史の違いによるものだろう。

ちなみに、やはりウィキペディアでオオカミについても調べてみた。犬の場合も、現在はオオカミの亜種と考えられているとの事であった。以前は犬の祖先はジャッカルであるというような説をよく耳にした覚えがあるが、現在ではオオカミと同属であるとされているようだ。絶滅した日本オオカミは大陸のオオカミとは別種と考えられているとのことで、このあたりの事情もかなり複雑で難しいものがあるようだ。日本の犬がニホンオオカミから来ているとすれば外国の犬とは祖先が違うことになる。

ただ、ニュース記事からは離れるが、飼い猫とヤマネコとの関係は完全に犬とオオカミとの関係と平行関係にあるということがあらためて分り、これはわかり易くかつ興味深い事とも思われる。

もう一つ。飼い犬の品種の多さと見かけ上の多様さは猫とは比較にならないものがある。これに関しては、もう一ヶ月以上前になるが、各紙で犬の体格差と遺伝子との関連についての研究が公表された。これについてはあらためて読み直し、考えて見たいものがある。