ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

科学と言葉

言葉の問題に関わる記事が多い。
先日のツシマヤマネコの記事に関わってウィキペディアを参照したところ、ツシマヤマネコのネーミングに関して次のような記述があった。『ツシマヤマネコは、モンゴル、中国北部、朝鮮半島済州島対馬に分布する。これだけ広い範囲に分布する動物を、対馬という小さな分布域で代表させた名で呼ぶのは、必ずしも適切ではないとの考えから、「チョウセンヤマネコ」または「マンシュウヤマネコ」 F. b. manchurica と呼ぶこともある』。そして後続の部分ではツシマヤマネコを「チョウセンヤマネコ」の変種として扱っている。非常に詳しく、何度も編集され、学名も詳しく書かれている。個人的な印象では、知識一般が国際化されている現在、日本でこのヤマネコが「ツシマヤマネコ」という名でしか一般に知られることがないというのは問題ではないだろうかと思う。


他方、BBCニュースで15日、次のような記事が出ている。
Climate messages are 'off target'  http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/6655449.stm

イギリスのティンダル・センターという、気候変動に関する学際的な研究機関の Mike Hulme という教授のメッセージと、それに賛同する主導的な気候学会メンバーの Professors Paul Hardaker and Chris Collier の意見の紹介である。それによると、気候変動に関する一部の科学者の誇張と言葉の「カジュアル」な用法とが、カタストロフィックな未来を語るメディアの論調を誘発し、それがかえって無感動を呼び、逆効果をもたらしていると批判している。また気候の"Hollywoodisation"が一般人の間に混乱をもたらしているというような表現をしている。これらの3人の学者は共に、最近の温暖化の要因として人為的な要因を認める側に属していることが付記されている。

「言葉のカジュアルな用い方」というのが具体的にどのような用法を指しているのかは言っていないが、大体は想像がつく。個人的に思い起こすのは、例えばクリーンなエネルギーとかダーティーなエネルギー、といった用法である。大体「きれい」とか「汚い」とかいった表現をやたらに持ち込まないのが科学というものだというのが一般の認識ではないだろうか。CO2排出の少ない燃料を比較の意味で「よりクリーン」だと言ったりするのはまだ分るとしても、だからといってCO2を多く排出するエネルギーをダーティーだといったりするのには反感を感じてしまう。有害物質を多く含む煤煙を汚いというのは自然なことだが、またこちらも感情的であるには違いはないが、CO2を多く出すからといってその燃料やエネルギーをダーティーだという気にはなれない。

ゲーテが批判したように、比ゆ的な表現は必要だが、それを固定化し、述語として固定化し、一般化した状況で使われるようになるところにも問題がある。


やはり言葉、命名に関する話題で次のような記事が出ている。
「学術会議:「準惑星」は使わず 学校向けにポスター作製」http://www.mainichi-msn.co.jp/science/kagaku/news/20070514ddm041040076000c.html

これによると冥王星を惑星から降格したこと自体は「太陽系の天体は冥王星の外側にも多数あり、従来の教科書の記述より広がっていることを知ってほしい」ということで、意義のあることだとしているが、国際天文学会がきめた「矮惑星」(準惑星)は使わず、学会に「定義の再考を求めることも検討している」と書かれている。

ドワーフプラネットを矮惑星でなく準惑星と訳したのは差別用語的な響きのためだと言われている。この種の問題では日本が他国に比べてより敏感あるいはセンシティブなのだろうか。逆に女性差別的とされる響の言葉に関しては欧米の方が敏感で神経質に思われる。ちなみに日本での「精神分裂病」と同様にスキゾフレニアが欧米では使用されなくなったと言われているが、英米の科学記事では結構「スキゾフレニア」が使用されているように思える。


最後にこの14日、カラスの脳の解剖学的研究でカラスの知能に言及した記事がアサヒコム、よみうりオンライン、msn毎日の三サイトに揃って報道されている。動物の進化の問題とともに、脳と知能と心との関連に関して繰り返し論じられる問題がまた改めて浮上してきたような印象である。この脳科学という分野こそ『科学と言葉』の問題に関して最も微妙で重要な領域ではないだろうか、というのが個人的な思いである。