イエネコのDNA
ニューヨークタイムズとBBCニュース、そしてよみうりオンラインで報道されたが、世界の飼い猫のすべてが中東のヤマネコであるFelis silvestris lybica の、少なくとも5匹以上の雌を先祖に持つことがDNA研究で分ったそうである。もちろん5匹の雌猫が同時にそろってやってきたわけでもないだろうし、少なくとも5匹ということだからもっといたかも知れず、もちろん雄猫もいたはずである。雄猫のことは何らかの技術的な理由で分らないのであろうか。研究を行った National Cancer Institute のCarlos A. Driscoll 博士によると、家畜化は猫の側からすすんで始まったもので人間の側から働きかけられたものではないということである。つまり、人間の領域である麦畑に住み着くようになり、それが人間に受入れられたということで、家畜とはいっても牛や馬などとは同列には考えられないのだろう。今でも猫は突然に他人の家に上がりこんで住み着いたりするようなところがある。
NYタイムズの記事によると、世界の野生猫はヨーロッパ・ワイルドキャット、ニア・イースタン・ワイルドキャット、サザン・アフリカン・ワイルドキャット、セントラル・アジアン・ワイルドキャット、そしてチャイニーズ・デザート・キャットの5種類が知られ、DNAも5つの「クラスター」に分かれるということだから、実際これらの5種類のヤマネコしかないということであろう。先日の毎日新聞の記事にあったツシマヤマネコはウィキペディアによればチョウセンヤマネコの変種ということだから、チャイニーズ・デザート・キャットとはチョウセンヤマネコまたはツシマヤマネコと同じなのであろうか。とすればやはり、ウィキペディアにも言及されていたように、ツシマヤマネコという名前で大陸のヤマネコまでをも表すのは、確かに不自然である。
やはりNYタイムズの内容だが、エジプト文明よりも古い9500年前の家畜化されたネコがキプロス島で発見されているということで、ネコの家畜化がエジプトで始まったという説は誤りということである。
もう一つNYタイムズで言及されていたことだが、今やイエネコは世界で6億を越す勢いであるのに対し、他のネコ科の野生動物とヤマネコは絶滅の危機に瀕している。ということはネコの家畜化は生物学的歴史上での大きな実験の始まりだという、この研究の主宰者の見解を紹介している。これは確かに興味深いことなのだろうと思われる。