ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

遺伝子理論が重要な見直しを迫られているという記事

今年の2月18日付けのニューヨークタイムズ記事
(07/02/18) Genetic Tests Offer Promise, but Raise Questions, Too (N)
http://www.nytimes.com/2007/02/18/business/yourmoney/18reframe.html

についてはウェブサイトの方に要約を載せ、2月27日付けのこのブログでも取上げた。この記事は executive director of the Hybrid Vigor Institute のDenise Carusoという人の論評記事であるが、同じ筆者の同じ問題に関する論評記事が、今月1日付けで再びニューヨークタイムズに掲載されている。もちろんその後の状況の推移に基づいた内容になっている。

今回もウェブサイトの方 http://www.ne.jp/asahi/qz/jtnk/sci/hakkentop.htmlに要約を掲載したが、現在確立されたように見える遺伝子理論が重要な見直しを迫られているという内容になっている。これは先月出版された United States National Human Genome Research Institute によって組織されたconsortium の国際的で包括的な調査に基づく見解をもとに書かれた記事であるが、それ以外にも6月6日と7日にそれぞれBBCニュースとNYタイムズに掲載された、糖尿や心臓病等7つの病気に関わる遺伝子変異との関わりに関する研究などをも踏まえた内容になっている。それ以外にBBCニュース6月15日の記事も当然関係しているのだろう。下記3件。

(07/06/07) Researchers Detect Variations in DNA That Underlie Seven Common Diseases (N)
(07/06/06) Serious diseases genes revealed (B)
(07/06/15) Human genome further unravelled (B)

これら何れの記事も、それらが非常に重要な発見であるという触れ込みで書かれている。

前者は要するに、例えば糖尿病といった一つ一つの名前のついた病気とそれぞれ対応する一つの遺伝子があるという、1対1の対応関係ではなく、複数の病気と複数の遺伝子との関係が認められるということが要点であると思われる。今回のニューヨークタイムズの記事ではそういった数々の研究をもとに包括的に、特に遺伝子特許を含むバイオビジネス、法律、遺伝子操作の安全性評価などに及ぼすインパクトを述べているように見受けられる。


大体、一つの病気というものは一つの病名、一つの言葉によって一つのものとして扱われているが、これもあらゆる単位や数量と同様、人為的なものである。遺伝子という一つの単位にしても同様に人為的な区分に過ぎない。病気と遺伝子という全く異なった範疇のものを統計的に対応関係が認められるからといって、固定的な繋がりを想定すること、対応関係を固定化することによって生じて来る問題という風にも捉えられそうである。近代科学の本質にも関わるような問題かも知れないと思う。


この1対1の対応関係の問題に絡んですぐに連想する分野は脳科学である。脳科学では脳の特定の部位と何らかの身体的あるいは精神的機能との対応関係が追求され、何らかの状態変化といった対応が認められることによって脳のその部位がある機能を「司っている」とか「統括している」といったような言い方がされている。そこには大きな飛躍があるように思われてならない。もちろん視神経のようにそれ自身が脳の一部であるとか神経で繋がっているというような関係は別問題である。

いずれにしてもこのような問題は日本のマスコミでももっと取上げて欲しいものである。


今回のNYタイムズの記事には次のようなくだりがある。
"Biologists have recorded these network effects for many years in other organisms. But in the world of science, discoveries often do not become part of mainstream thought until they are linked to humans."
これはこれで非常に興味深く、示唆的な文章であると思う。