ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

この2ヶ月間におけるBBCニュースを中心とする温暖化関連記事と根本順吉著『世紀末の気象』、1992年、筑摩書房―とを合わせ読む。(3)

(前回よりの続き)
『世紀末の気象』において、上記のような過去の温暖記におけるCO2およびメタンの増加が気候変化に追随して起こり、その逆ではないとしている根拠は、大気中のCO2増加の原因が他に考えられないからとしている。先の北極海堆積物調査に関してAppy Sluijs が「地球が温暖化ガスの巨大な『おなら』をしたように見える」、などといっているのも原因が全く考えられないからだろう。

このCO2の発生源であるが、『世紀末の気象』では太陽活動の活発化によって海洋表面の温度が上がった結果、海洋から大気中に放出された結果であるとし、その根拠としては1958年から1988年までにわたるハワイのマウナロア山頂におけるCO2と気温の測定値のグラフから、気温の変化に1年ほど遅れてCO2が平行して変化していること、要するに気温の変化に追随してCO2が変化していることが指摘されている。確かに一方が原因で他方が結果であるなら、時間的に先行するほうが原因であるのは当然で、言われてみればこんなに分りやすいことはない。

5つのニュースサイトの記事でこの問題に関わるものは少なくともこの期間にはみられなかったが、海洋を含めたCO2の吸収源に関する話題はあって、毎日新聞のサイトに次の二つの記事があった。
(07/05/18)「 CO2:南大洋の吸収、ほぼゼロ 地球温暖化加速か−−8カ国調査 」(m)、(07/06/22) 「二酸化炭素:北半球森林の吸収、定説の半分−−7カ国研究チーム分析」 (m)
前者は南大洋の、後者は北半球の森林それぞれのCO2吸収量がそれぞれ従来考えられてきた量よりも大幅に少ない事がわかったという内容で、見だしをみれば何れもショッキングである。

『世紀末の気象』では直接これらの問題に触れている個所はないが、空気中のCO2の測定値に関する北半球と南半球の違いに関しては説明がある。北半球の測定値はハワイのマウナロア山頂の長年にわたる測定値のグラフを中心に論じられているが、このグラフでは1年周期の規則的な変動が見られ、これを夏と冬との植物のCO2吸収量の変動によるものとしているが、これは当然であろう。これに対し、南半球の測定値には1年周期の変動が見られないのは南半球に陸地、したがって陸上植物が少ないからであるとされており、これも納得できることである。また、このことから地球表面近くでは北半球と南半球の空気が殆ど混ざり合っていないことも分る。人為的CO2の排出も殆どが北半球だから、この記事の冒頭の「二酸化炭素(CO2)の吸収源と考えられてきた南大洋(南緯45度以南)が、最近はほとんど吸収していないとみられることが日本など8カ国の国際研究チームの分析で分かった。」という記述はどのように考えたらよいのだろうか。

前述のように『世紀末の気象』の中心に据えられている理論では、海洋表層の温度上昇により海水中のCO2が放出されるという機構が基本になっている。これに従うと、それまで大気中のCO2が海洋中に吸収される傾向が続いていた場合は海洋の温度上昇に従ってCO2の吸収量が減少してゆくという結果となって現れる筈である。少なくとも北半球のようにCO2排出量が増加しているわけではないのだから、この平衡関係が維持される筈である。上記記事中の「南大洋のCO2吸収力は、平均して年間約800万トンずつ弱まり、現在ではほとんど吸収していないという」という記述は、海水温の上昇傾向が続いている限り、傾向としては『世紀末の気象』の理論に合致している。量的な問題になるとこれだけでは分らないが、ただ、「年間800万トン減少」という数字はギガトン級の年間排出量に比べて3桁だけ少ない。

この記事ではまた、「CO2濃度が高く吸収する余力が乏しい深海の海水が上昇、海表面付近に広がった――と想定すると説明できる」という記述がある。深海の海水が上昇するという、湧昇流のことは『世紀末の気象』でも触れている。ところがこちらでは湧昇流の多い時期は寒冷期であって、湧昇流は大気中のCO2を大幅にに吸収するという、全く逆のことが述べられている。

このブログでは今回、『世紀末の気象』と日英米の5つのニュースサイトの記事に限定してその範囲内で考察してみようとした訳だけれども、こうなるとそうも言っておられないので、湧昇流の問題をネット検索してみたところ、
「CO2温暖化脅威説は世紀の暴論/槌田敦http://env01.cool.ne.jp/ss02/ss023/ss0231.htm#001
に詳しい記述が有った。ここでは海洋生物の役割を中心に説明されていて、次のような結論になっている。「湧昇海域では,光合成に必要な養分濃度とCO2濃度は過不足なく均衡している.したがって,南半球の光合成にとって大気のCO2は必要がなく,その濃度は季節変化しないのである」

ちなみに、このサイトは『世紀末の気象』と大体符合する内容が包括的に、更に学問的に述べられている。こういう専門学者によるサイトはこれまで意図的に訪れることを避けてきた。筆者の時間と能力の関係で参照ソースを限定した範囲内で考えてみたかったからである。今回もこのサイト全体をを十分に勉強できたわけではない。

さて、もう一方の、北半球の森林のCO2吸収が定説の半分であったという記事である。この件に関連して上記サイト「CO2温暖化脅威説は世紀の暴論/槌田敦」には次のような記述がある。「そもそも,人間社会の発生したCO2が大気中に溜まるとすると,その半分が行方不明になるという欠陥は20年も以前から指摘されていた」。
このニュースで「定説」とされているものが具体的にはどのような「説」であるのかは分らない。がこの記述を見るとこの「定説」は20年以上前から指摘されていた欠陥を無視していた説でありそうである。

この問題は調べてみると「missing carbon」とか「missing carbon sink」の問題と呼ばれて、インターネットでは特に英語サイトでは数多くのヒットするサイトがある。残念なことにBBCニュースとニューヨークタイムズのサイト内検索では殆どヒットしなかった。
下記のサイトを少し読んでみた。
Former IPCC Member Slams UN Scientists' Lack
http://newsbusters.org/

この元IPCCメンバーのTom V. Segalstad という人には次のようなサイトがあった。
「Commentary: The Construction of Dogmas in Climate Science 」
http://www.cfact-europe.org/thisweeksfeature_25.html

こういう記事を全部読んだ訳ではないが、毎日新聞サイトのこのような記事も、もっと背景を掘り下げ、一般人にも意味、あるいは重要度が分るように報道して貰いたいものだと思う。
(次回に継続予定)