ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

動物行動学と進化論

新発見に関わる科学ニュース記事で圧倒的に多いのは医学関係を除いても、常に生物学関係である。生物学と言っても当然幅広い専門分野をカバーしているが、分子生物学とか、生化学のような分野を除くと、大体は動物行動学あるいは生態学といった分野になるのだろう。常識的に考えて動物学とか鳥類学とか昆虫学とか、こういった分野と思われる研究で報道されているものは大体が行動学か生態学の範疇に含まれると考えてよさそうである。もちろん、植物学の場合はそうではない。植物の場合は圧倒的に利用に関する記事が多い。薬草の話題などは薬学になってしまうのだろうが、あるいは生化学でもあるかもしれない。また食物学といった分野になる場合もあるかもしれない。このサイトを始めて以来、植物学関連で直接に利用、応用と関わらない研究で印象に残っているものが一つだけあり、それは日本の研究でアサヒ、よみうり、毎日各誌で報道された花成ホルモンに関するものだ。しかし、一般に植物学で動物行動学に相当するような興味深い分野の研究が話題になることが少ないのは多少さびしい気がする。

動物関係で話題になることが多いのは、植物の場合とは逆に直接の利用、応用とはあまり関係のない、動物の行動に関するものだ。昆虫では蜂や蟻に関する研究が特に目立つ。とにかく応用とは離れてそれ自体興味深く、単純に面白いともいえるのものである。ミツバチは人間の利用、人間の環境と深いかかわりがあるが、それ以外の蜂や蟻などは現在のところ全く人間生活とは関係がない。それにもかかわらず、常に人々の興味を引く対象でもある。このような昆虫学の話題はBBCニュースとニューヨークタイムズでは結構頻繁に現れるテーマであって、特にBBCニュースでは全体として科学ニュースの記事そのものが多いということもあるが、その中でもこの種の記事が多くを占めているということだろう。

動物の行動や生態、性質に関する興味はそれ自体、本質的に誰もが知りたく興味を持つ事柄であると同時に、人間に関する多方面の研究にも繋がることもあるだろうし、もちろん生命の本質についての認識、人間と動物との関わりといった人生の本質的部分というか、人生観、宗教、哲学にも関わってきそうな話題でもある。もっとも、それを言い出せば自然科学のあらゆる分野がそうであるには違いないのだが。

ただ、観察された動物の行動の持つ意味、それは色々と、あるいは何段階にも意味付けすることが出来るであろうが、最終的には進化論、それもダーウィン自然選択説による進化説の裏付けへと収斂して行く傾向は現在では絶対的とも言えるほどだと思われる。

(07/08/14) Lessons From an Insect’s Life Cycle: Extreme Sibling Rivalry (ニューヨークタイムズ)
http://www.nytimes.com/2007/08/14/science/14wasp.html?ref=science

これはスズメバチ科の(下記コメントの通り、このスズメバチ科というのは誤りです。お詫びして訂正します―2007/09/28 追記)ワスプ(common wasp known as Copidosoma floridanum)というハチの幼虫群の特殊な生態に関するものであって、その特異あるいは不気味ともいえる生態自体は1世紀以上前から知られていたことであるが、最近になって進化を研究する一つのモデルとして注目されるようになってきたということでこの記事になったようだ。その生態は異様であるともいえるが、見方によっては普遍的にも見える。蛾の卵の中に寄生して産卵された一つの卵が何千にも分裂し、その各々から幼虫が孵り、寄生元の卵から孵った蛾の幼虫の体内に寄生する何千もの幼虫の中から兵隊グループが現れて、いわば間引きを行うように仲間の幼虫を攻撃するが、最終的には生き残った仲間から、寄生元の蛾の幼虫と共に食われてしまう。この現象あるいは生態に関して色々と実験や数学的モデルを作ったりして、自然選択理論に合致する説明を展開しているということのようだ。素人から見ると、このような現象あるいは生態はむしろ遺伝子理論とか発生の理論からみて興味深い、あるいは問題の多い現象のように見えるのだが、ここではもっぱら自然選択による進化との関わりで議論されている。

ダーウィンの自然選択による進化論の問題は、特にアメリカでは神による創造説とかインテリジェント・デザイン説などとの関わりで、重要な問題でありつづけているようだけれども、進化論といえばダーウィン自然選択説のみが選択肢となっているような印象を受ける。他方、宗教といえばキリスト教、それもプロテスタント、特に原理主義的なキリスト教のみが議論に昇ってくる傾向がある。ダーウィン的進化論とキリスト教創造論との二極対立というか、二者択一となり勝ちのように思われる。

(07/08/07) What’s in a Name? Parsing the ‘God Particle,’ the Ultimate
Metaphor (ニューヨークタイムズ
http://www.nytimes.com/2007/08/07/science/07essa.html?ref=science

この記事では科学で使用される言葉の問題、具体的には比ゆ、擬人化の問題から上記の宗教的な創造説論者とそれを攻撃する科学者との応酬が取上げられていて興味深いものがあった。言葉に関わる記事では(07/08/01) Language Evolution’s Slippery Tropes (NYタイムズ)
http://www.nytimes.com/2007/08/01/books/01grim.html?ref=science
のような記事があって、これは言語学の書評のようだが科学欄で取上げられている。面白そうで出きることなら読んでみたいものである。著者は“The First Word,” を“the hardest problem in science today.”と呼んでいるそうである。