ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

温暖化メカニズムに関するその後の記事 ― だいたい出揃った各種要因

その後の温暖化記事で、ある程度温暖化のメカニズムにまで関った内容のものでは、次の二つの記事がある。
(07/10/02) Arctic Melt Unnerves the Experts (N)
http://www.nytimes.com/2007/10/02/science/earth/02arct.html?_r=1&ref=science&oref=slogin
(07/10/10) Warmth makes the world more humid (B)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7038278.stm

上の記事は、北極の氷がIPCCの予想よりも早く減少し、今年の夏季に現在までの最低になったという、多くのメディアで取上げられている問題を取上げ、この問題のエキスパートたちのアラスカの大学における集会に取材した記事である。とにかく、温暖化ガスの影響から見積もられる予想値を遥かに越える勢いで氷が減少していることに専門家も当惑しているという内容で、それを説明するための幾つかの議論が紹介されている。ともかく風や海流を含む気象全体の歴史的な結果なのだから、複雑な事は当然で、そういう全てがシミュレーション出来ているように思うのは幻想に過ぎない事がわかる。

ともかく、CO2による気温上昇による溶解以外の、氷の減少に関わる幾つかの要因が挙げられ、それには風によって氷が北極から流されること、広くなった水面がより多くの太陽熱を吸収すること、温暖化を加速する水蒸気量の増加が取上げられている。

不可解なのは、煤等の大気汚染の問題が全く取り上げられていないことである。この問題はニューヨークタイムズでも、BBCニュースでも独立して別の調査研究の紹介として以前に取上げられている。以前のブログでも取上げたけれども、何れの報告でも煤その他の汚染物質が北極の温暖化ないし氷の減少に及ぼした効果はCO2による気温上昇よりも遥かに大きいという、研究者のコメントが紹介されていた。今回の記事によれば1930年台にこの地域に大きな気温上昇があり、グリーンランドスカンジナビアに近い部分が大きな影響を受けたといわれているが、丁度その時期はこの地域の煤などの大気汚染がピークに達していた時期にあたっている。アラスカの大学で持たれたこの集会の趨勢がこうだったのか、あるいは取材した記者の判断によるものかどうか、またはその両方かは分らないが、このような大気汚染の影響を指摘した研究を無視しているとすれば、それはどう考えてもおかしい。

大気汚染の問題はもちろんそれだけでも、また温暖化の問題と平行しても話題になることが多いが、温暖化それ自体となると常にCO2だけとセットにして述べられ、なぜ大気汚染物質が――このような研究が一つならずあるのにも関わらず――視野から外されてしまうのか分からない。

また今回の記事に限ったことではないが、「人間活動による温暖化」という類の表現と「CO2を原因とする温暖化」という類の表現と、「温暖化ガスによる温暖化」という類の表現が、同じ文脈の中で入り混じって使われる場合が多い。このことも温暖化関連の記事にあたる場合に困惑させられることの一つである。

二つ目の記事はBBCニュースの記事で、温暖化ガスとしての水蒸気のついての研究紹介であって、要約では「大気はman-made climate changeに従うパターンに沿って水分を増している」という内容になっている。

水蒸気の「温室効果」がCO2のそれよりも遥かに大きいということは、CO2が温暖化の主要な原因であるとする意見に反対する側からはよく言及されることであるけれども、BBCニュース等の科学ニュースで取上げられたのは昨年末にこのサイトを始めてからでは始めてのように思う。CO2一点張りのマスコミ一般でも温暖化ガスとしての水蒸気の問題は殆ど取り上げられることがない。というのも、温暖化ガスとしての水蒸気は、この記事の中でも"IPCC said that this amplification was the largest "positive feedback" と述べられているように温暖化自体を原因とする二次的なフィードバック要因とされているからであろう。

北極の氷に関する前者の記事とこのニュースの二つで、(昨年末にこのサイトを開始して以来のことであるけれども)各ニュースサイト科学蘭で取上げられている地球温暖化に関わる主要な要因は出そろったように思われる。そしてその多くが地球温暖化そのものに誘発されたフィードバック要因である。ここでそれら、CO2以外の主な要因を列挙すると次のようになる。
(1)雪や氷の表面積減少による太陽熱吸収面積の増加、(2)大気中メタン、(3)水蒸気、(4)煤等の大気汚染物質。これらの中で(1)から(3)までがフィードバック要因とされている。今回のこのニュースではもっとも温暖化効果の大きな水蒸気の増加傾向がIPCCのモデルに一致していることがわかったということなのであるが、その後の説明を読めばわかるように、IPCCのモデルでは、少なくともこのニュースの説明を読む限り、CO2をフィードバック要因とは見ず、一次的な要因としていることが分る。実際にIPCCのモデルはどうなのかは知らないが、このニュースを読む限りはそうなっている。

大雑把に言えばCO2以外の(1)、(2)、(3)の要因については、これらが二次的なフィードバック要因であるとする点で、「世紀末の気象(根本順吉著)」等の自然のサイクル(太陽活動等)を温暖化の一次的な原因とする説も、IPCC等の人間活動CO2を一次的な原因とする説も、変わりがないといえる。そして、人間活動CO2主要原因説の主要な特徴は次の2点であると捉えることができる。
1.大気中CO2の増加が、(他の何らかの原因による)地球温暖化それ自身に誘発された二次的すなわちフィードバック要因であるとはみなさない事。
2.煤等の大気汚染物質の温暖化への影響を無視あるいは過小評価していること。

「2」に関しては文字通り「無視」としかいいようがない。
「1」に関しては、人間活動のなかった過去の温暖期の地質学的な研究が焦点になる。その種の調査研究が日、英米のニュースサイトでも取上げられており、グリーンランドや南極の氷のボーリング調査や北極海の堆積物の調査などの記事が掲載されている。少し前の、このブログでも取上げたとおり、それらの何れも、過去の温暖期における大気中CO2増加の証拠を示しているが、どういうわけか、当時のCO2増加の原因については触れることが少ない。一つの記事で、専門の科学者のコメントとして、「地球がCO2の巨大なおならをしたようだ」といった発言を紹介している程度である。

人間活動CO2が一次的な根本原因であるという説が本当に説得力を持つには、人間活動CO2のなかった過去の温暖期に大気中CO2増加の原因となった現象とおなじ現象が、現在の温暖化には全く関わっていないということを証明する必用がある。しかし、いつになってもそういう記事は現れてこない。ただ、シミュレーションをやり直したり、目新しい研究方法を開発したり、といった研究がクローズアップされるばかりである。