ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

 "Panpsychism"(汎心論)、"Mother Nature"(マザーネイチャー)、"Reincarnation"(輪廻転生)、"Young earth creationist"(ヤング・アース創造論者)


科学上の発見ではないけれども、「科学史」、「科学と言葉」に関わる興味深い3本の記事が相次いで現れた。いずれもNYタイムズの記事で、その二つはそれぞれcontributing writer、contributing editorである著述家によるもの。末尾に著書も紹介されている。
(07/11/18) Mind of a Rock (N) http://www.nytimes.com/2007/11/18/magazine/18wwln-lede-t.html?ref=science
(07/11/20) Are Scientists Playing God? It Depends on Your Religion (N) http://www.nytimes.com/2007/11/20/science/20tier.html?ref=science
(07/11/25) Rock of Ages, Ages of Rock (N) http://www.nytimes.com/2007/11/25/magazine/25wwln-geologists-t.html?ref=science


最初の記事では最近"Panpsychism"(汎心論)の範疇に入る思想がちょっとした流行になっているとして、最近話題になっている3人の哲学者、心理学者(削除 08/03/14)の思想を紹介している。末尾の紹介文ではこのエッセーの筆者自身が、同じ傾向?の書物を執筆中であることが伺える。

Panpsychism、日本語訳で汎心論、という言葉はこれまで知らなかったが、良く知られているアニミズムの哲学版であるという風には、直ぐに推察できる。この言葉はやはり、少なくともよく使われるようになったのは比較的最近のことかも知れない。というのも、英語でも日本語でも、少し古い辞書や、小さな辞書には汎神論は出ていてもこちらの方は出ていないからだ。20年以上前のバージョンだけれどもブリタニカ日本語版にも出ていない。もちろん今のある程度の辞書で調べれば出ていて、語源も書かれているが、いつ頃から使われだした言葉かは分からなかった。古くからあったにせよ、最近注目されるようになってきた概念、言葉なのだろう。もちろん過去の多くの思想にもこれが適用され得るのかもしれないが、この種の考え方が最近になって分かりやすい形で出てきたのかと思われた。最近の脳科学情報科学と技術の発展が関係しているということは納得できる話だ。この記事の後の方に次のようなくだりがある。"And where there is information, says panpsychism, there is consciousness." 確かに、意識の無いところに情報なるものがあり得ないというのは正しいと思うし、私自身もそのように考えていた。


二つ目の記事も広い意味で精神と物質に関わる内容だが、最近の遺伝子操作技術との関連での宗教問題を扱った記事ということが出来る。記事ではクローン技術を使った幹細胞の研究を進めるにあたっての国における許容度の違いを説明する Lee M. Silver博士 (Princetonの分子生物学者)の著書を紹介している。そこでは東アジアとインドの宗教文化をヒンズー教と仏教だけで説明しているのは少し大雑把だけれども、ヨーロッパとアメリカ南北を含め、キリスト教と「ポスト・キリスト教」という二つの区分で分けていることは非常に興味深く思われた。シルバー博士による「ポスト・キリスト教」というのはヨーロッパの一部、特にイギリスとアメリカの海岸地域に顕著な宗教観で、キリスト教の神がマザー・ネイチャーという女神に置き換えられたものだというのである。また、これはニューエイジ思想と繋がるかどうかは分からないが自然に対する宗教意識で共通するものがあると言っている。これは非常に興味深い考え方だと思えるし、説得力もある。キリスト教の神も自然の創造神であるからキリスト教と直接繋がっているようにも見えるが、博士は女神だと言っているので、この点で伝統的なキリスト教とは正反対になっている。自然科学の進展とも当然、関係がありそうである。また東洋の思想の影響もあるだろう。シルバー博士の考えをもっと知ろうと思うなら著書を読むほかないが、個人的には芸術・文学の影響、とくにロマン主義芸術の影響が大きかったのではないだろうかと思っている。

以上のように世界を大まかに三つにわけ、アジア地域ではクローン技術に寛容であり、伝統的キリスト教地域では厳しく、ポスト・キリスト教地域ではその中間だといっている。そういうわけでクローン技術に厳しいキリスト教圏の研究者がこの点で寛容なアジア、特にシンガポールとか韓国に移り住む傾向が見られるそうである。

韓国がクローン技術に寛容であることの証拠として、論文捏造事件が問題になったファン・ウソク教授が仏教信者であり、輪廻転生を信じていることを引き合いに出して、クローン技術を正当化したという話が持ち出されている。この人物がそういう発言をしていたことは知らなかったし、日本でそういうことはあまり話題にはなっていなかったのではないか。日本では現在の韓国はあまり仏教的ではないような印象がある。キリスト教信者も多い。しかし、この記事では韓国の仏教界の重要な人物もこの種の技術が仏教の教えに沿ったものであり、韓国の科学者に対して西洋の倫理に導かれることが無いようにと諭したという話も紹介されている。

個人的には、輪廻転生説それ自体だけでクローン技術を全面的にでも部分的にでも正当化することにはならないように思う。とはいっても現実にアジア各国ではこの面で規制が寛容であることは確かなようである。しかし、日本に関してはどうだろうか。この記事では日本のことは全く触れられていない。

この記事を読んでから気になって日本のこの方面での規制を調べてみた。日本では平成12年のクローン技術規制法という法律があって、多国との比較をみると、その時点でイギリスよりも少し厳しく、アメリカより少し寛容といった感じである。ちょっと気になることは、クローンという言葉の使い方に英語の文脈と日本語の文脈とでは若干の違いがあるように思えることである。ES細胞樹立とか、ヒト胚とか、素人には区別の困難な専門用語が多くてわかりづらいが、どうも英語における方がクローンという言葉が広い意味で使われているように思われる。この辺りのところ、用語の使い方を明確に、出来れば英語の用法に合わせるほうが誤解が防止できて良いのではないだろうかと思う。もっとも英語の方で明確でない面があるとすれば仕方が無い。
先の汎心論の問題に比べると、こちらの方は宗教問題にも直接関わってくる、より切実な問題であるともいえる。また科学技術とくに医学には関わりが深く、より科学に近いところまで迫って来ている問題だともいえると思う。とはいってもまだまだ距離が、あるいは溝が深そうであるけれども。


三つ目は地球の年齢が8000年程度であるとする複数の創造説地質学者とキリスト教大学関係者等に取材した記事。聖書のヤングアース創造論がテーマであるけれども、聖書のリテラリズム(Literalism)の問題と捉える方が適当かも知れない。・・・・・・・・・・