医療と宗教と死生観
昨年末を含め、多忙のため2ヶ月近く期間が開いてしまった。
もう一月以上経ってしまったが、毎日新聞サイトの次の記事:
(08/01/04) 東大調査:がん患者300人に死生観問う ケア環境を再考 (m)
http://mainichi.jp/select/science/news/20080104k0000m040081000c.html
日本でのこういう調査研究はマスコミの調査などを含めて新聞上などでこれまでにも見たことがあるが、この記事によれば国内初の大規模調査とある。大学諸学部による専門的で単なる統計上の報告に終わらない大規模な研究になるということだろうか。
この記事を読んで、昨年のニューヨークタイムズの記事を思い出した:
(07/09/18) Insights: Two Paths: Religion and Psychiatry (N)
http://www.nytimes.com/2007/09/18/health/18insi.html?ref=science
これら二つの研究を比較してみて(日本の東大の調査の方はこれから研究を始めるという予告であり、アメリカの方は結果報告の記事であるが)この種の問題における取り組み方の日米の微妙な違いが見られるように思われた。気づいたその違いとは次の4点である。
1.日本の方では、がん患者を対象にしているのに対し、アメリカの方は医師を対象にした調査であること
2.日本の方では、「死生観」を表題に掲げてテーマとしているのに対し、アメリカの方は「宗教」を前面に掲げて調査していること
3.上記と関係があるが、具体的には日本の方では死後の世界と霊魂の存在といった問題を扱っているのに対し、アメリカの方では医療活動において、という条件があるものの、神を信じるかどうかという問題になっていること
4.アメリカの方では、一般の医師と精神医学の医師との比較、また、プロテスタントとカトリック信者との比較、といった、かなり具体的に焦点を絞った調査の仕方になっていること。
もちろん、限られた期間内の二つの記事だけであり、アメリカの方ではこういった研究も古くから何度も実施されているのではないかと思われる。それだから当然、こういった違いは、日米の相違というよりもそれ以上に個々の研究における個別の問題意識、調査目的の違いに過ぎないかも知れない。しかし、それにしてもやはり日米の違いは歴然として見られるように思うし、第一こういった問題の調査研究の歴史的な進展の度合いという点では、やはりアメリカの方が進んでいると思わざるを得ない面がある。というのも医師を対象とした調査というのは、科学者による、科学者自身を対象とした調査と言えるものであるからである。
そうは言っても、反面、このアメリカでの調査は現在のアメリカの文化、宗教の伝統に規定された問題の捉え方、あるいは切り口に束縛されているような面もあるように思う。というのもキリスト教とユダヤ教、カトリックとプロテスタントとユダヤ教という3つの宗教の枠組みの中でのみ考察されているようであり、アメリカにおけるこの種の研究としてもこの点では、これはちょっと古いのではないかとも思える。
日本の方はまだこれからだけれども、このアメリカの方の記事を改めて読んでみると、新聞上のきわめて簡単な紹介ではあるけれども、外部からアメリカを見る参考として興味深いものがある。例えば精神科医には今でもユダヤ人が多いこと、また精神医学医師の42%、一般医師の53%までが自らをreligious or spiritualと見なしていることなど、興味深いものがある。
いずれにせよ、これら二つの記事を並べてみてみると、一つだけでは気づかなかったいろいろな問題が思い起こされ、興味が尽きないものがある。