ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

身体と心 ―― 致死の病と心、一卵性双生児の心、笑いと身体

前回、二つの記事、すなわち日本、毎日新聞の、
(08/01/04) 東大調査:がん患者300人に死生観問う ケア環境を再考 (m)
http://mainichi.jp/select/science/news/20080104k0000m040081000c.html
アメリカ、NYタイムズの昨年の記事、
(07/09/18) Insights: Two Paths: Religion and Psychiatry (N)
http://www.nytimes.com/2007/09/18/health/18insi.html?ref=science
とを比較してみた。

今になって後からまた、いくらかの記事を遡ってみると、ちょうど記事をチェックできていなかった1月の始めにイギリス、BBCの次のような記事が見つかった。
(08/) How to live, by the dying (B)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/magazine/7167947.stm

これはBBCの放送番組に基づく記事であって、学者や研究機関による学術調査ではないけれども、専門の学者も参加している。これには前に比較した日本とアメリカの状況ともまた違ったイギリスの状況が見て取れるように思える。対象としては上述の、日本の東大で進行中の研究に近い内容である。但し、東大調査の方は「死生観を問う」ということであるのに対し、こちらは、「残された人生に対する態度」についてであって、死についての意識の方は捨象してしまっているように見える。また、アメリカの研究に見られる宗教、特にキリスト教、神に対する言及は全く見られない。こういう記事をみてみると、昨年12月3日の記事で取り上げた Lee M. Silver博士 (Princetonの分子生物学者)の著書紹介の内容、すなわち、ヨーロッパとアメリカの大部分がキリスト教社会であるのに対し、イギリスとアメリカ海岸地域はポスト・キリスト教社会であるという主張を裏付けるような形になっているように思われ、この点も興味深いものがある。もちろんイギリスでもこのような調査、研究は他にも行われているだろうけれども、たまたま一定期間に現れた日、英、米の一つずつの調査から、それぞれの特徴が伺えるのはやはり興味深いものだと思う。

この調査ではがんなどの致死の病で余命を知ることになったことが、その後の人生に対する態度を積極的に変えることになった例を主に紹介している。精神分析学者の「A lot of research done on dealing with a terminal illness has shown that people often end up living a happier and much fuller life in the time they have left, says psychoanalyst and counsellor Gladeana McMahon.」という部分がこの記事の要約になっているといえるだろうか。致死の病気によってそういう意識の変化が得られるのなら、病気にならない内にそのような意識の変化を獲得すれば尚良いのだという結論になっているようだ。しかしそうは言っても、「"People deal with such news differently, some never come to terms with it.」というのも実情である。また、もし病気にならない間に、既に残りの人生に対する積極的な態度を持って幸福で充実した人生を送る人がそういった病気に襲われた場合はどういうことになるのだろうか、といっった疑問あるいは興味も、当然起きてくることだろう。

やはりBBCニュースの昨年12月末の、次の記事は全く別の問題を扱ったものだが、やはり、心と身体との関わりに関わるものといえる。
(07/12/31) Twins reunited, after 35 years apart (B)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/7152762.stm
これもBBCニュースの記事だけれども、紹介されているのはアメリカにおける研究であり、事件ともいえるケースを扱っている。これもラジオ放送に関わる記事のようだ。
これはアメリカの、一人の児童心理学者の指導する研究プロジェクトして行われ、ニューヨークの里子斡旋機関との協力によって、一卵性双生児の姉妹を異なった里親に養子として斡旋し、その後の追跡調査を行ったというものである。しかしこの記事はその学者Dr Peter Neubauer の研究を紹介したものではなく、当の姉妹がその事実を知ることになったという事件を紹介したもので、姉妹に対する取材であって、ニューバウアー博士に対しては殆ど取材していないようだ。取材を拒否されたのかもしれない。その研究の内容は2066年までは封印されるということであるから、この研究はニューバウアー博士から次の世代の研究者に引き継がれるということになるのだろう。このこと自体は科学研究というものを考える上で興味深いものだが、記事の読者にとってもこの点では多くの疑問が残される。研究の一環であるという事実は養子縁組の両親にも知らされていなかったし、30歳を超えて、姉妹の一方からの、里親斡旋機関への問い合わせがあり、事実が発覚するまでは博士に会うことも無かったのだから、その間何らかの調査が行われていたのかどうかも分からない。調査されていたとすれば、スパイ行為になる。すべて偶然の成り行きに任せられていたとすれば、研究としては物足らないものになる筈と思える。
もともと出生と同時に里子として養子に出された限り、後になってから真理の一端を知ることになるのは避けられないことであるし、兄弟あるいは双子であっても別れ別れになることも避けられないことである。普通一般の誰であっても、自らの出生の状況を確実に、100%知ることはまずあり得ないことである事を思えば、こういう研究も成り立つことになるのかも知れない。しかし当然のこととして姉妹の方からは恨みの気持ちが表明されている。姉妹が希望して博士に会った際も、質問には十分答えられず、逆にその機会を研究に利用されたと姉妹は思う。しかし、生みの母親が精神を病んでいたことを知ることになり、精神病の遺伝についても研究の一環ではなかったのかと疑っていることは、それを博士から聞かされたのだろう。しかし、それも事実であるかどうかは姉妹自身で調査し、確かめるべきことにもなるかも知れない。
一卵性双生児が異なった環境でも似た性格になることなど、この研究を待たなくても知られていることだろうが、そのことはこの記事でも報告されている。しかしニューバウアー博士の研究意図と成果がが全く報告されていないことは読者にとっても不満なことであるし、姉妹自身もむしろ報告される方を望むのではないだろうか。姉妹の同意を得た上で多少は発表すべきではないかと思うのだが、それも研究妨害になるのであろうか。

今年2月16日付けアサヒコムの記事

(08/02/16) 笑い測定機開発、大爆笑4秒で20「アッハ」 関西大 (a)
http://www.asahi.com/science/update/0215/OSK200802150063.html
関西大の木村洋二教授が笑いの測定器を開発し、笑いの研究を進めようとしているとの、このニュースはテレビやラジオのニュースでも見たり聞いたりしたが、これはストレートに心と身体との関係の研究そのものだと思え、興味深い。笑いは主として言葉の意味に関係するが、もちろん言葉には限らない。イメージや音楽にしても、何にしても意味を理解することと、身体的な反応との関係である。
笑いの科学的研究と聞いてすぐに思い出したのは昨年か一昨年、NYタイムズBBCニュースでも紹介された、ネズミを笑わせているという映像である。
http://www.youtube.com/watch?v=j-admRGFVNM
この映像ははネズミをくすぐると、喜んで超音波の笑い声を出すというものだったが、この研究では横隔膜などの反応はどうだったのか、興味をもたれるところである。また、くすぐられるということが何か意味的なものと関係があるのかどうかということも興味深いものだ。人間もくすぐられると笑うことに変りはない。

以上、三つの記事は何れも広い意味で心と身体との関係、心身相関などと言われる問題に繋がる研究であると言う点で共通性があり、また、今後さらに発展する重要な研究分野でもあると思う。