気候変動要因としての煤その他の大気汚染物質に注目した記事が目立つ
このブログとウェブサイトを始めたのは一昨年末だったが、最初の頃から多数ある温暖化関連記事の中にも一定の頻度で煤をはじめとする大気汚染物質の温暖化と異常気象への影響に着目した記事が出現しており、そういう記事は着目すべきものに思われた。特に昨年6月の記事「すす(煤煙)の温暖化効果」で取り上げた、北極の温暖化への煤の及ぼしてきた影響はCO2よりも格段に大きいというNYタイムズの記事は、かなりインパクトのあるものだった。その後も別ソースの同じようなニュースがBBCニュースにも現れたし、グリーンランドやアジアの山岳地帯に関わる記事もあり、その都度注目してきた。
今年になってからは1月にフランス発のニュースとして下記のニュースが読売新聞に掲載されているのが印象に残っている。
(08/01/24) 北極の氷、2年間で日本3つ分消えた (Y)http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20080124-OYT1T00410.htm
この記事では現在の、北極海域での資源開発による大気汚染の影響の大きさを指摘している。前者の記事は19世紀末から現在に至るまでの長期間に渡る調査であって、北極の温暖化が進んだ時期は現在からかなりさかのぼる時期だったが、このフランス発のニュースによれば、現在もまたピークに向かいつつある事を伺わせる。
他方、温暖化、気候変動の要因としての煤その他の汚染物質の調査が進展している事を伝えるニュースもいくつかある。
(08/01/21) 富士山測候所、高所科学研究拠点に 宇宙線や高山病研究 (a)http://www.asahi.com/science/update/0121/TKY200801210118.html
この記事によれば、産業技術総合研究所のグループが富士山頂で、気候変動との関連調査が目的で煤の観測を始めたそうである。また、
(08/01/29) NASAに東大助太刀 最新の微粒子測定機、北極観測 (a)
http://www.asahi.com/science/update/0129/TKY200801290375.html
このニュースでは東大がNASAに協力して北極の大気中微粒子物質の温暖化に及ぼす影響調査に加わることが報じられていた。
もちろん健康問題に関連した大気汚染物質関連のニュースは他に沢山ある。大気汚染物質の健康リスクはチェルノブイリの放射能のリスクよりも大きいといった様な記事もあった。特に北京オリンピックが近づいた今、この問題が多く取り上げられるのは当然だろう。大気汚染の問題自体に対する注目度が増すに従って、温暖化と気候変動に関わる要素としての大気汚染の問題も今後、報道される機会が増えてきつつあるように思われる。
つい最近になって、ニューヨークタイムズの「DOT EARTH」という連続コーナーでは最近、キャスターの記事として次のような記事が発表されている。
(08/03/29) Soot in the Greenhouse, and Kitchen (N) http://dotearth.blogs.nytimes.com/2008/03/26/soot-in-the-greenhouse-and-kitchen/
この記事では最近、Nature Geoscienceに発表された研究を紹介しているが、それは煤の温暖化効果はIPCC見積もりの2倍以上あると要約されている。この記事では特に、ヒマラヤの氷雪融解の原因としてのアジアの家庭で調理のために燃やされている家畜の糞や薪などにスポットが当てられている。動物の排泄物などは日本で時々紹介されているように、メタンガスに変えれば煤の発生は抑えられると思えるが、そういう試みはどうなのだろうか、とちょっと気になった。
この記事では今回の研究に加えて、NASAのHansen博士の、従来からの主張が紹介されており、過去の2000年10月3日付けの記事にリンクされ、古い記事であるにも関わらず誰もが読めるようになっている。NYタイムズでは珍しいことに思われる。
(00/10/03) Debate Rises Over a Quick(er) Climate Fix http://www.nytimes.com/2000/10/03/science/03GREE.html?ex=1207022400&en=e781c502056f30eb&ei=5070
大気汚染と温暖化との関連では昨年もNASAの調査が紹介されることが多かったが、それはこのHansen博士のグループの仕事に関わるものであるようだ。
こちらの記事はNASAのGoddard Institute for Space StudiesのDr. James E. Hansenを中心とするグループが"Global Warming in the 21st Century: An Alternative Scenario," という研究を発表したことに始まり、それがアメリカに巻き起こした論争を中心に紹介解説した記事である。これによれば、Hansen博士は気候変動に対して、より即効性があって実現可能性も大きく現実的な対策として、CO2対策はひとまず棚上げにした上で、大気汚染物質の削減に努力を集中すべきことを主張している。
話が少しややこしくなるのは、その他の汚染物質として、煤と並んでメタンとオゾンとを挙げ、ひとまとめに議論している部分と、煤だけをクローズアップしている部分とがあることである。メタンとオゾンに関しては化学的な挙動に関して分からない部分が多いらしい。そのことでHansen博士の案に反対意見が出てくる。そして、結局は化石燃料を全体として削減するするに及くことはないという、個人的にはどんぶり勘定的に思われる議論に道を譲ってしまうことになったように思われる。
2000年の段階ではこのHansen博士の意見は大方の賛同を得られなかったようだが、いまNYタイムズでこの古い記事を再び公開することになったのには、それを要求する状況の変化があったのかも知れないと思わせる。
これら、煤の温暖化効果についての記事に共通するのは全て、「CO2の効果の倍以上」とか「IPCCの見積もりの2倍以上」といった見積もりである。もちろん「CO2の効果の倍以上」と「IPCCの見積もりの2倍以上」では全く意味が異なる。けれどもこういう表現を見て、また、もともとCO2の温暖化効果自体が相当な不確定要素を含んだものであるらしいことを考えると、CO2の効果に比べて煤の効果の方がかなり確定的な値として出されているのではないかと思えるのである。
また注目されるのは当初から今に至るまで、煤の温暖化効果に関しては、これを無視する記事はあっても否定する記事は一つも現れないことである。ちなみに、太陽活動の要因に関しては時折否定する記事が現れるが、こちらも大方は無視されているという言い方が近いだろう。温暖化の原因、即CO2あるいは人間活動による原因、即CO2とする数多くの記事はすべてこれらを無視する記事と言えるが、特に昨年秋の北極の氷の異常な減少速度に関して、アラスカの大学にエキスパートが集まって議論したというニュースで、煤その他の汚染物質要因に全く触れられていなかった事にはちょっと奇異なものを感じた。
政治とマスコミの表面では相変わらず殆どがCO2一点張りの扱いだが、科学調査の現場では着実に温暖化と気候変動要因としての、煤を始めとする大気汚染物質の方にシフトしつつあるのではないかと思われる。政治的な場面でもアメリカ当たりからこのシフトが始まるのではないだろうか。