ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

暖流の変化と海水温低下に基づく今後10年間の気温予測に関してのBBCニュースとNYタイムズの記事および日本の関連記事


BBCニュースとニューヨークタイムズではそれぞれ、最近の今後10年に向けての気温予想に対する紹介とコメントを合わせた記事を掲載している。

(08/05/01) Next decade 'may see no warming' (B) http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7376301.stm


(08/05/01) In a New Climate Model, Short-Term Cooling in a Warmer World (N)
http://www.nytimes.com/2008/05/01/science/earth/01climate.html?ref=science
(08/05/01) Can Climate Campaigns Withstand a Cooling Test? http://dotearth.blogs.nytimes.com/2008/05/01/can-climate-campaigns-withstand-a-cooling-test/


日本の方でも暖流に関する別ソースの記事が出ているが、こちらは今後10年間の気温予想については何も触れていない。
(08/04/27) メキシコ湾流:大気の長期変動に影響 地球温暖化探るカギに (m)http://mainichi.jp/select/science/news/20080427ddm016040041000c.html


BBCニュースとNYタイムズの取扱いは、取扱い方としては似ているが、内容的にはかなりの差がある。まず、BBCニュースではNYタイムズで取り上げている二つのソースの中、一つしか取り上げていない(メキシコ湾流の変化によるヨーロッパ方面の気温上昇の停止)。議論の内容もNYタイムズの方に比べると簡単で、主として専門家の短いコメントの紹介に終わっている。NYタイムズで取り上げている二つのソースというのは、
1.ネイチャー5月号の記事で、ソースはThe team that generated the forecast, whose members come from two German ocean and climate research centersによるもので、メキシコ湾流によるヨーロッパの温暖化傾向が今後の10年間は止まるだろうというシミュレーション研究。
2.もう一方は太平洋の海水温が低温フェーズに入り、気温上昇もしばらくは止まるであろうというincluding NASA scientists at the Jet Propulsion Laboratory in Pasadena, Calif., reported separately on April 21による発表。


両サイトの記事は共に、気候変動には人間活動による「温暖化ガス」による直線的な温暖化の要素と「自然のサイクル」の二つに分けられる要素があることを前提として認めなければならないということを述べている。BBCニュースの最近の記事では、現在では自然のサイクルによる影響は無視できるというような言い方の記事も多かったように記憶しているのだが。

「自然のサイクル」の大元の原因については両者とも事実上、触れていない。

NYタイムズの記事は何れもキャスターのブログという形式での一連の記事で、その一部が科学欄の見出しのリンクとしても掲載されている。ここに取り上げた二つの記事では、上記二つのソースの他に、何人もの科学者の発言や、過去の幾つかの記事への言及をも含めた、かなり多くのソースを網羅したエッセーとなっている。

引用されている過去の記事を見ると、あのゴア元米副大統領の有名なキャンペーンが始まった頃の記事がリンクされている。ちなみに、このときは当ブログを始める前で、NYタイムズの記事も見てはいなかった。また、その年の年末あたりのIPCC報告より数ヶ月前のことでもあった。

当時の記事を見ると、多くの科学者の意見は、極端な危機論者と、その反対の「懐疑論者」の中間にあるとして、グループを含め、何人かの科学者の意見を紹介した上で持論を展開している。その後にIPCCの報告があった訳だが、その報告の後しばらくは世界的にも立場がIPCC報告に合わせて収斂してゆく傾向が続いたのかも知れない。

本題の、冒頭に掲げた最近二つの記事では、やや「危機論者」への批判に傾いているように思われた。初めの記事では、過日(3月31日)このブログでも取り上げたように、再びNASAのHansen博士の発言が引かれている。前回の引用で、Hansen博士は、煤などの大気汚染物質の温暖化への影響をCO2の影響よりも格段に大きいと見なしていることが分かるが、今回引用されている発言では、現在のところ、人間活動による気候変動要素よりも自然の変動要素の方がまだまだ多きいのだといっている。この二つの発言を併せると、Hansen博士はCO2の影響を非常にわずかしか見積もっていないことが分かる。そしてこの記事の筆者はかなりHansen博士の見解に同感しているのではないかとも受け取れる。

BBCニュースの記事も、NYタイムズの一連の記事も、いずれにしても化石燃料を消費し続けるライフスタイルを修正してゆく必要を再確認する形で記事を統一しているが、そのニュアンスにはかなり差があるように見受けられた。少なくともNYタイムズ、キャスターのブログでは、危機意識を煽る現在の、環境急進主義者とでもいうのだろうか、その方面への批判に傾いてきているようだ。このドット・アースというブログは最初から見てはいなかったが、六ヶ月前にスタートしたそうである。


日本の三紙のサイトでは今のところ、上記BBCニュースとNYタイムズのニュースに相当する記事は出ていないようだ。

毎日新聞に掲載された、メキシコ湾流に関する上記記事からは、以上のテーマからはそれるけれども、気になったことがある。この記事には、別に問題にすべきことでもないのだが、次の様な表現が見られた。
「メキシコ湾流は黒潮と並ぶ北半球最大の海流で、熱帯地方の熱を中高緯度地方に運ぶ役割を担っている」。
面白いのは、「・・・熱帯地方の熱を中高緯度地方に運ぶ」という表現で十分に意味が伝わるはずのところ、なぜことさら「運ぶ役割を担っている」という表現を使っているのか点である。科学的な文章でのあからさまな擬人的表現は、説明の困難な状況を何とか切り抜けるための苦肉の策とでもいうような場合が多いと思うのだが、この場合はそうではない。こういう表現を用いたいという、心理的、あるいは感情的なものが見て取れる。


擬人的な表現と見ることも出来るが、この場合はそれ以上の何かで、いわば機能主義的表現とでも言えると思う。機能主義といえば建築や工芸デザインの傾向としてよく用いられる言葉だが、科学の分野内でも心理学では機能主義という立場があるようだ。生物学ではあまり聞かないが、生物学では機能主義的な考え方はあまりにも当然過ぎるのかも知れない。医学、生理学ではなおさらそうである。物理学や化学などでは機能主義を含め、何々主義などというものは事実上無い様に見えるのだが、この場合の例をみると、地球科学などでは、こういう考え方は結構あちらこちらに潜んでいるように思われる。改めて考えてみれば、物理化学と縁が深い工学は機能主義そのものである。機能主義というのは科学の基礎的な部分でも相当根深いものかも知れない。