ブログ・発見の発見/科学と言葉 [2006年12月~令和元年まで]

2020年6月22日、本サイトの更新と過去の記事はhttp://yakuruma.blog.fc2.com/ に移転しました。当面、令和元年までの記事が残されています。

以前のタイトル:ブログ・発見の「発見」―科学上の発見から意味を発見―

2007年に本ブログを開始したときは、ウェブサイト上の科学に関するニュース記事(BBCニュース、ニューヨークタイムス、および日本の有名新聞サイト)に関するコメントとして記事を書き始めました。現在、当初のようにニュース記事に限定することなく、一般書籍や筆者自身の記事を含め、本ブログ記事以外の何らかの科学に関わる記事に対するコメント、具体的には感想、紹介、注釈などの記事を書いています。(2019年4月)

活断層、断層帯、地震活動帯 ―― 四川大地震関連の科学ニュース

科学ニュースとしての四川大地震関連の記事は読売と朝日で何度も繰り返し報道されている。読売はこれまでも、国内の地震が起きたときには頻繁に科学ニュースで取り上げており、今回も異なったソースからの解説が日をおいて多数報道されている。朝日でも数回にわたって報道され、こちらでは、幾つかの大学教授らの複数の報告を中心にまとめられており、とくに中国人学者の報告が中心になっている。毎日毎日の科学ニュース欄には全く記事が見られなかった。

以外だったのは、いつもあれだけ世界各地の多方面の話題を取り上げているBBCの科学ニュースで一本の記事も無かったことだ。何故なのだろうか。一方、ニューヨークタイムズの科学欄では早期に、読売などと同様5月13日に一本だけ記事があったが、いつものニューヨークタイムズの科学ニュースの基準から見れば量的にずいぶんと少ない。
(08/05/13) Disaster Set Off by Colliding Land Masses (N)
http://www.nytimes.com/2008/05/13/world/asia/13plate.html?ref=science

最初の、5月13日の、何れの記事でも竜門山断層ないし断層帯との関連が言及されていて、朝日でも読売でもこの断層が動いて地震が発生した、あるいはこの地域が震源になっているという表現になっているのに対し、ニューヨークタイムズの記事では、この断層がこんなに大きなマグニチュード地震を起こすとは予想されていなかったとし、これまで知られていなかった未知の断層が動いた可能性があるという、アメリカの学者の意見を紹介している。日本の記事では断層の他に断層帯という言葉も使われており、そういう概念が有るのであれば、アメリカの学者が言う「未知の断層」も竜門山断層帯に含まれるのかも知れないとも思われたが、これがよく分からない。断層と断層帯とはどれほどの違いがあるものなのか。考えようによっては根本的に違う概念のようにも思われる。字義どおり解釈すれば断層は1つの二次元面であるのに対し、断層帯というのは三次元の地域全体を意味するからである。しかし「断層帯(竜門山断層)」と書かれた記事もあって、断層帯と断層が同一視されているようでもある。とすれば断層帯というのは断層群とでも呼ぶべきものかとも思われる。しかし現実問題として断層という二次元の面が動くということは両側の三次元領域が動くことに他ならないのだから、そのような違いを問題にするのは屁理屈というものかも知れない。しかし、それではアメリカの学者は何故断層帯という概念を使わずに、「未知の断層」の可能性を示唆しているのだろうか。まあ、こういうことはこれ以上詳しく具体的に、専門的に立ち入らない限り、議論しても始まらないが、その後の続報ではやはり、参考になるか、逆に混乱し、矛盾も感じられるような、色々な記事が出ている。

続報では竜門山断層のずれが地上に露出しているのが発見されたという記事があり、これによれば竜門山断層そのものが動いたことは間違いが無かったことが分かったようだが、さらにその後の朝日と読売の記事で、静岡大の林愛明(りんあいめい)教授の調査で(竜門山断層の)2つの断層が連動して地震が発生したことが明らかになったという記事が現れる。どうやらこの2つの断層の中の1つが本来の竜門山断層で、他の1つは具体的には知られていなかった断層、アメリカの学者のいう「未知の断層」であったのかも知れないとも思われた。

しかし朝日の5月26日記事
(08/05/26) 断層2本が連動、計300キロずれ 四川大地震 (a)
http://www.asahi.com/science/update/0526/TKY200805260332.html
によれば、「林教授によると、竜門山断層帯は南西―北東方向に走る「灌口―安県断層」「北川―映秀断層」「茂ブン(ブンはさんずいに文)―ブン川断層」の3本が並ぶ。全体で長さ約500キロ、幅約30〜50キロの断層帯を形成している。」とあり、ここで始めて竜門山断層帯と個々の異なった複数の断層との意味が明らかになったように見える。アメリカの学者は中国人の林教授ほど詳しく竜門山断層帯そのものを知らなかっただけなのだろうかとも思われた。

しかし、5月21日の朝日の記事
(08/05/21) 「死んだ断層」揺れた 主な活動は恐竜時代 四川大地震 (a)
http://www.asahi.com/science/update/0521/TKY200805210150.html
によれば、この断層帯が活動したのは主に恐竜時代で、現在は「死んだ断層」と考えられていたということである。この記事には、成都のように古代から人口の多いこの地域でこれまでに大地震があれば記録が残っているはず、という、東京大の池田安隆准教授の説得力のある見解が紹介されていいる。だから、見出しにあるように「死んだ断層が揺れた」ということになるようだ。

しかし、ここに至っても未だ、アメリカの学者のいう、「未知の断層」という可能性が無くなってしまった訳でもないようにも思われる。というのは、林教授の言う三本の断層以外にも未知の断層があって、その断層には比較的新しい時代の、といっても三国志時代を含む有史時代よりは古いが、恐竜時代よりはよほど新しい時代の大地震が記録されているという可能性も考えられないこともない。
とはいえ、現に震源の真上の地表に現れた2つの知られた断層が大きく動いたことが確かめられているわけだから、見出しに有るように「死んだ断層が動いた」ことは否定できないことだろう。

こういう一連の記事を見て思う事は、断層という概念の難しさである。難しいが、しかし、それでも活断層とか死んだ断層といった言葉を使って議論しているときには、素人でもそれが何者であるかが分かっているような気がしている。それは擬人化されているからに他ならない。もちろん、断層が人間や動物に見立てられているわけでは無いにしても、活火山とか死火山と同様、活断層とか、死んだ断層、と言う場合はかなりあからさまな擬人化である。活断層という言葉が広く知られるようになって以来、地震は殆ど活断層との関係のみで一般に語られ、理解されるような傾向があるように思われる。断層という言葉のみがあった時点ではこれが擬人的な表現であったとは普通の意味では考えられないが、活断層という言葉ができた時点から断層自体も擬人化されたといえるだろう。

この断層帯は「死んだ断層」と考えられてきたと言われるのに対して、比較的最近になってニューヨークタイムズに現れた記事では、この地域の地震の危険性は指摘されていたと言われている。
(08/06/05) Experts Warned of Quake Risk in China (N)
http://www.nytimes.com/2008/06/05/world/asia/05quake.html?ref=science
この記事によればブンセンで1933に大きな地震が発生して以来、この地域の危険性が認識されるようになり、1970年頃から集中的に調査されていると書かれている。ただ、1933年の地震が竜門山断層に関係しているかどうかは書かれていない。
また最初期の朝日の記事
(08/05/13) 規模、阪神の20〜30倍 過去にも多発 (a)
http://www.asahi.com/science/update/0512/TKY200805110158.html
でも同じ林愛明(りん・あいめい)・静岡大教授のコメントで、竜門山断層は「中国でも代表的な断層で、過去にも何度か被害地震を起こしている。今回の震源もここだと思う」という、「死んだ断層」の記事とは矛盾した発言が出ている。この記事にも「四川・雲南地震活動帯」という言葉がでているが、結局は、個々の断層や断層帯よりももっと広域的な単位で巨大地震の可能性を考えることが大切なのでは無いだろうか。個々の活断層ないし断層の歴史のみで個別に考えても仕方のないことのように思われる。第一、断層の全てが発見され知られている訳でもない事でもあるし、また断層を地図で見ると、非常に長い3本の断層のなかで今回動いた部分と動かなかった部分との距離は相当あると同時に、動いた部分の端の方は知られている断層の延長部分であり、厳密には知られていた断層そのものの上とは言えない。個々の断層が端から端まで一体のものとして動いたわけではなく、その一部が、しかも隣の断層の平行した部分とともに動いていたわけである。現実に動くのは断層に沿った線上であるにしても、平面の地図で一本の線にみえる断層単位だけではなくて広い平面的な範囲の現象として考えなければならないように思われる。現実に断層という二次元の平面には物的なものは何も存在しない。存在するのは断層という平面の両側にある質量を備えた地殻の一部分であるからだ。これは専門家でなくとも分かる当たり前のことである。

断層のことなど、何も記事がなかったBBCの科学ニュースで、最近になってから、地震の前兆による予想が当たっていたという記事が出ている。
(08/06/05) Plan for quake 'warning system' (B)
http://news.bbc.co.uk/2/hi/science/nature/7435324.stm