中国における古気候の注目すべき研究のニュス
中国における歴史時代の気象に関わる非常に興味深い研究がBBCニュースで報道されている。
(08/11/06) Monsoon link to fall of dynasties (B)
この記事で取り上げられた研究は有史以来の気候の調査研究として非常に興味深いものであって、この専門分野内で現実にこの種の研究がどの程度成果があがっているのかどうかは別として、現在の温暖化問題との関わりで多くの人が興味をもち、待ち望んでいるといっても良い筈のものである。にも関わらず一般に発表されたり、報道されたりすることが少ないだけに、今回の記事は注目すべきニュースであると思う。
BBCニュースで紹介されているその研究は中国とアメリカの学者による共同研究によるもので、サイエンス誌に発表されたとのこと。内容は中国甘粛省の鍾乳洞の石筍の成分分析と年代分析から、現在から1,000年以上にわたる過去の気候を半年程度の精度で推定した結果と、それに基づいた過去の気候変動のメカニズムとその及ぼした影響との研究と言える。
「王朝衰退にモンスーンが関係」というシンプルな見出しにもあるように、この研究の要約としては中国の唐、元、明の長期王朝の衰退と滅亡の時期が、夏のモンスーン風が弱かったために乾燥していた時期、要するに雨量の少なかった時期に重なるというもので、いわゆる気候変動が文明の盛衰に影響を与えてきたのだという面を強調してのことという印象を受ける。気候変動と王朝の衰退との関係は興味深い問題ではあるが、それはこの、石筍の物理科学的研究とはまた別分野の歴史的研究が関係してくる問題である。もちろんこの場合は雨量の減少による米など農作物の凶作という、比較的単純で明快なメカニズムとは言えるので、こういう結論というか、要約の仕方もそれなりの意味はあり、示唆に富むといって良いのかも知れない。しかしこの現在、現実に興味を持たれるのは過去の気候変化の物理的なメカニズムそのもの、あるいは原因の方であり、モンスーンの変化が気温の変化とどの程度関係しているかと言うことであろう。
当然、湿度変化をもたらしたモンスーン変化の原因にも言及されている。この研究で確認できた過去のモンスーン変化のサイクルのうち、9世紀から10世紀にかけての乾燥期はマヤ文明の衰退期と重なっていること、またモンスーン変化のサイクルはスイスアルプスの氷河の前進と後退とも対応していることに言及され、さらにそれが数世紀間にまたがる太陽活動の変動に従っており、太陽がこの間の気象サイクルに重要な役割を担っていたことが示唆されるとしている。
さらに続いて、このモンスーンのサイクルが北半球における千年単位あるいは百年単位での気温の変化にも追随していることが述べられているが、この部分は「to a lesser extent, it also followd・・・」と、控えめな表現になっている。
モンスーンのサイクルが太陽活動に追随していることと、北半球の温度に追随していることとが別のこととして取り上げられ、太陽活動と大気温度との関係については何も述べられていないのが、どうも奇妙に思われるのは私だけだろうか。モンスーンの変化がどのように太陽活動の影響を受けるのかというのはもちろん難しい問題があるだろうが、誰にとっても興味津々の問題だろう。
この記事は最後に次のように締めくくられている。「現在、この50年の間に関係は変わってしまった。研究者はこの関係を人間活動による温室効果ガスと硫化物エアロゾル排出に起因するものとしている。」
化石燃料の燃焼によるCO2や汚染物質が大量に排出されるようになったことは言うまでもない事であるが、それはこの50年というよりももっと以前からだろう。それよりも、何よりも、最近から現在にかけての時期が太陽活動サイクルのどのような時期に当たっているのかについて触れることが無いというのは、どう見ても片手落ちである。記事では、「this relationship has switched」と書かれているが、電源スイッチを切り替えるように、太陽活動から人間活動に切り替わるというような訳には行く筈が無いと思われるのだが。
とはいえ、このような最近の数百年から千年以上にわたる歴史的時間での太陽活動と気象との関係に、はっきりと言及した記事がBBCニュースに現れてきたことは、注目に値するのではないかと思われる。