興味深いスロー地震の理論
日本は地震国で地震の研究も進んでいると言われているが、その割りに理論的な面での目新しい研究が紹介されることは少ない印象がある。もちろん、断層が発見されたとか、そういったニュースはよくあるが、発生した地震の解析といった面でも理論的な面でそれほど興味深い発表は少ないように感じられる。活断層があるとかないとか、発見されたとか、そのような話ばかりが眼につく。中国の四川省地震の時もそうだった。
BBCニュースやNYタイムズの科学欄でも結構、英米の科学者による地震関連の研究が紹介される事は多く、その中には自国の地震帯にこだわらず、地球的な視野での純科学的な研究も日本に比べて多いのではないかという印象はある。今回BBCニュースで紹介された次の記事はそういう意味で目新しく興味深い。
Typhoons trigger slow earthquakes
これはネイチャーに発表され、アメリカCarnegie Institution for Scienceの科学者グループによる台湾東部地震帯における調査を基にした研究で、海洋プレートの速度が非常に速く、造山運動も非常に活発なこの地域でなぜ巨大地震が少ないのかを説明するものであるそうだ。
ボーリングをして地下深部の歪みを高感度で長期間測定した結果、長時間続くスロー地震を20回検出た。それをなんと大陸における台風のデータとを比較し、20回のうちで11回までが、巨大台風が大陸に上陸している時期と正確に一致し、それが偶然である確立は非常に低いのだそうである。
そのメカニズムは、台風が大陸を通過している間の強い低気圧のため、大陸に負の圧力が加わり、断層における圧力を低減し、スローな動きを可能にし、歪みが開放されるということであるが、このことが現実に巨大地震の可能性を低減させていることを証明することは難しいそうだ、というのも、研究者のDr Linde曰く、"how do you prove something that doesn't happen?" 。
もちろん、こういう現象を日本などの巨大地震の防止に役立たせるというような事は、まずはあり得ない。しかし逆の現象は人為的に起きている可能性もあるかも知れない。というのも巨大ダムなどの場合、逆に圧力を増加する方向に向かう。この場合は歪みをさらに閉じ込める事になる。場合によって、局所的には微小地震を多発して歪みが開放されるような事もあるのではないか、などと素人考えで想像もできるが、単なる素人の想像である。
いずれにせよ、現実の役に立ちそうもないが、それ自体興味深いし、知っておいた方が良い話だろうと思う。